不幸は迎え撃たなければいけない
経済的にも何不自由なく、愛し合っている夫婦がいたが、或る日突然、夫は破産し、それを苦にして自殺した、というような例が、小説でなくてもあるのである。
戦争中、空襲があって防空壕の中にじっと身をひそめいると爆弾がこわくてこわくてたまらなかった。外へでて消火活動をしていると、不思議におそろしくない。多分、不幸は迎え撃たなければいけないものなのだろうと思う。酒をのんだり、忘れようとしたり、手をかえ品をかえてそれを避けようとすると、却って身がすくむ。何よりも、自分の不幸を特別なものだと思わないようにすることが肝心なのではないかと、私はいつも自分に言いきかせるようにしている。