NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

赤の祭典

 数日前、ある組合が年末闘争のためのデモ行進をやっていた。おおきな赤旗が何本も通り、延々長蛇の列である。プラカードには、戦争準備のために使う金をこっちへよこせという「闘争的」な文句が書いてあった。 
 が、をかしなことに、行進をやっている列中の人々の大部分が一種の照れくささを感じているらしいことを私は発見した。まるで恐縮しているかのごとく、そこには隊列の外に自分の要求を強く押し出そうとする者の激しさも切実さも見られず、むしろおたがい肩をいだきあい、顔をのぞきあうような感じさえあった。その行進の主役は赤旗とプラカードであって、人間はただそれを運んでいるだけなのである。それでは自己の中の人間の権威がはずかしめられることになり、いきおい悪びれた表情で、おたがいに肩をよせあいたくもなるのだろう。
 それと前後して、ニュース映画で証券取引所のストを見たが、この方は景気よく向う鉢巻であった。ストというと、きっと鉢巻だ。これもプラカードと同じく、少い闘争心をかきたてるもので、鉢巻がなくては形にならない気勢なのであろうか。そのスト隊員も、ニュース映画のカメラの前で、にやにやわらっているものが多かった。まことにわれわれは「平和民族」である。

── 福田恆存『日本への遺言』


「雇用安定など訴え 連合と道労連が札幌でメーデー」(北海道新聞
 → http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/229126.html
「ハバナでメーデー大行進 カストロ前議長の姿なし」(47NEWS)
 → http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010050101000780.html
「メーデーデモ、暴徒化=財政再建策に反発−ギリシャ‎」(時事通信)
 → http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010050100498