義士
「新選組隊士、吉村貫一郎、徳川の殿軍(でんぐん)ばお努め申っす。一天万乗(いってんばんじょう)の天皇様に弓引くつもりはござらねども、拙者は義のために戦ばせねばなり申さん。お相手いたす!」
みんなが見ていたはずです。そのときだけ風が已(や)み、はっきりと声が聴こえたように思えるのは、気のせいでしょうか。
人間じゃない何物かが、そこに立っていた。それは、侍という化物です。人間の皮をかぶった侍という化物が、押し寄せる新しい時代の前に立ち塞がったように、あたしには見えたんです。
義のため、とあの人はたしかに言った。意味はよくわかりません。義とは、人として踏むべき正しい道のことです。だが、義のための戦(いくさ)という意味が、あたしにはよくわからなかった。
人として踏むべき正しい道のために、あの人は戦をし、死んだということでしょうか。あの人がたったひとりで手向かった相手は、錦旗でも官軍でもなく、もっと大きな理不尽だったのでしょうか。
徳川の殿(しんがり)を努めると、あの人はたしかに言った。その意味もよくわかりません。たったひとりで殿軍を努めるとは、いったいどういうことなのでしょう。
ともかく、そのときあたしがこの目で見たものは、人間ではない何物かだった。
今日は『壬生義士伝』
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『壬生義士伝 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%AC%E7%94%9F%E7%BE%A9%E5%A3%AB%E4%BC%9D
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おのれらは貧と賤とを悪と呼ばわるか。富と貴とを、善なりと唱えなさるのか。
ならばわしは、誇り高き貧と賤とのために戦い申す。断じて、一歩も退き申さぬ!