2019-12-04 『山月記』 今思へば、全く、己(おれ)は、己の有(も)つてゐた僅かばかりの才能を空費して了(しま)つた訳だ。人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦(こっく)を厭(いと)ふ怠惰とが己の凡(すべ)てだつたのだ。己よりも遙かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となつた者が幾らでもゐるのだ。 ── 中島 敦(『山月記』)昭和17年(1942)12月4日 中島 敦 没 現代日本文学館 李陵 山月記 (文春文庫)作者:中島 敦出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/07/10メディア: 文庫