NAKAMOTO PERSONAL

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ベトナムで発見した日本人の心

ベトナムで発見した日本人の心 飯島 勲 『リーダーの掟』」(PRESIDENT Online)
 → http://president.jp/articles/-/15647

なぜ、同じ製品をわざわざ日本で買うか

 私は昔から銀座という街が好きだ。休日の昼間、歩行者天国をブラブラするのが趣味なのだが、最近は、銀座もずいぶんと変わったものだと思う。我々はゆっくりするのが目的で出かけているのに、中国人観光客がキャリーバッグを引きずりながら、せわしなく歩きまわっている。

 上海、香港の中国人が内陸部の中国人を評して「うるさい、汚い、タンを吐く」と軽蔑するのを聞いたことがあるが、中国人観光客のマナーの悪さを見るにつけ、あまり深い付き合いはしたくないと考えるのは上海人、香港人だけではないだろう。

 中国では反日教育が盛んなのに、なぜ彼らは日本に来るのか。それは、彼らに人気の炊飯器や温水洗浄便座に代表されるような、“日本製”がほしいからだろう。しかし、実は日本企業の工場は中国に進出していて、同じ製品が自国でも手に入る。わざわざ日本にやって来て、中国でも販売している製品を指さして、店員に「これはメード・イン・ジャパンか」としつこく確認しながら買っていくのは、中国人が「メード・イン・チャイナ」の製品を信用していないのだ。それが「爆買い」の実態だ。

 人件費の安さに魅力を感じて日本企業が中国に進出しても、中国特有の問題で結果を出せないことが多いという。ある程度の業績を残していても、景気減退懸念や人件費の高騰、中国政府による介入に嫌気がさして中国国内から製造拠点や営業拠点を撤退しようという企業が増えている。しかし、従業員への補償や、さまざまな契約に縛られて、撤退するのも大変な状況である。中国での製造によって、ブランドイメージが悪化したり、中国特有のさまざまなコストが負担にならないようにしたりするために、せめて新製品、新型モデルの製造だけでも、一刻も早く中国から移動させたほうがいい。

 では、中国から脱出した企業は、どの国に行けばいいのか。

 いま、日本企業は東南アジアに進出する動きが盛んになっている。ベトナム、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー……。

 私が実際に各国を歩いてみたなかでは、ベトナムを一番にお勧めしたい。日本企業の進出先として非常に良い条件がそろっているからだ。

 歴史的には、第二次世界大戦以降だけでも、植民地時代の宗主国フランスを破って独立し、軍事介入してきた米国にも勝ち、さらに隣国中国にも勝利した。

 いずれも国力が数倍上の相手にひるまずに立ち向かった不屈の精神が素晴らしい。大和魂以上の精神力を感じる。ベトナム共産主義国ではあるが、経済的には自由化が進んでいて、自由主義陣営ではないかと思えるぐらい、現地の人々とやりとりをしていて違和感がない。

 すでにベトナム工場を稼働させているキヤノン御手洗冨士夫会長兼社長も数ある進出先のなかでもベトナムを高く評価していた。

 「職人の賃金が安く、手先が器用で、人としても信用できる。進出した当時は識字率が低く困ったこともあるが、マニュアルを紙芝居のように絵にして説明するとすぐに理解できるようになった。最近は海外留学経験者も増加、従業員の識字率も向上して世界水準の素晴らしい工場になってきた」

 会長から直接その話を聞いて、私もこれからはベトナムの時代だと感じた。特に、かつてサイゴンといわれた南部の大都市、ホーチミン周辺はすさまじい勢いで発展している。ホーチミンに隣接するドンナイ省は、漆芸で有名な地域。日本の漆器を思い出してもらえばわかるが、漆というのは難しい素材で、卓越した職人技がなければ加工できない。こうした職人の伝統がある地域に、日本企業が中心となって工業団地を開発、ベトナム進出が加速したようだ。

 九州で有名な冷凍たこやきメーカー「八ちゃん堂」は、ホーチミン郊外に40ヘクタールの農地を買って、ナス農園を展開している。現在350人の従業員がいるが、日本人はわずか1人で、管理職も含め、あとはすべてベトナム人で経営しているという。日本の厳しい基準でナスを栽培し、現地の工場で1本ずつ焼いたナスを急速冷凍し日本に出荷。食品を扱っているが、信用できる現地スタッフのおかげで中国のような衛生上の心配は一切必要ないという。今後は冷凍マンゴーも展開するというので楽しみだ。


日本人と給与水準は同じがベスト!

 サッポロビールベトナム工場も2011年から稼働している。5年もしない間に、ベトナム有数の人気ブランドに成長し、現地に出向中の日本人ビジネスマンからも「日本と同じ味がベトナムで飲めるとは!」と好評だが、味以上に好評なのがサッポロガールだという。

 ビールの宣伝を担当する女性といえば、セクシーなコスチュームのバドガールが有名だが、あのサッポロ版と考えてもらいたい。ビールのラベルをイメージさせる黒と金の衣装で、ビールを運んできてくれる。ベトナム東南アジアでも美人が多いことで有名だ。

 私は酒を飲まないのでわからないのだが、同行者に聞いたら、美しい人が持ってきてくれるとビールが美味しくなるという。ビールは簡単に味が変わる不思議な飲み物だ(笑)。キャンペーンガールでなくても、まじめで働き者のベトナム人に日本に働きに来てもらう機会が増えてもいいのではないか。

 高齢化が進む日本では、これから200万人以上の介護職の不足が予測されている。ブローカーなどが暗躍して、安い賃金でフィリピンやインドネシアなどから日本に働き手を連れてこようとする動きもある。しかし、安いから連れてくるという発想では、治安などの面で日本社会も混乱を招くだけだ。

 私は、海外出身者でも日本人と同じ仕事ができるなら、同じ金額を支払うような仕組みが必要だと思う。実際にその方向で働きかけを強めている。ちなみに、日本の介護福祉士の給与は月額15万円程度で、いろいろな資格をとると月額約30万円程度となる。月額15万円は、ベトナムの中央官庁の局長クラスの給与水準にあたるのだが、ベトナム人の現役医師にこの話をしたところ、私を雇ってくれないかと言ってきた。この調子でいけば優秀な人材が、日本に集まるのは間違いない。

 ベトナムの経営者と接していて、非常に感心するのは、「仕事がほしい」「仕事の相談にのってほしい」と言ってこないことだ。日本の多くの経営者の場合、私がパーティで名刺交換などをすると数日後に「実は折り入ってご相談がございまして……」と電話をしてくる経営者が多いのだが、ベトナムの経営者からは一切ない。ベトナムが栄えれば企業も潤うと考えているのか、「環境をよくしたい」「インフラを整えたい」など国全体の展望については雄弁に語るが、自分の相談事は一切しない。日本人がどこかでなくしてしまった大切な何かが、ベトナム人の心にはあるのだ。

小泉元総理秘書官が明かす 人生「裏ワザ」手帖

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