NAKAMOTO PERSONAL

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思いつき政策

「【産経抄】8月7日」より
 → http://sankei.jp.msn.com/life/news/110807/trd11080702370000-n1.htm

 戦後、日本文化が深刻な危機に直面したことがある。当時、支配していた連合国軍総司令部の民間情報教育局(CIE)が、日本語のローマ字化を企図したのだ。漢字は習得が難しいから日本人の教育程度は低い。このため戦前、軍部の独走を許したのだという。

 乱暴至極の理由だったが、日本人にも賛同者がいた。小学校で算数をローマ字で教える「実験」も行われた。しかし文部省の教育研修所が日本語の読み書き能力の調査をしたところ、過半数が90点満点で80点以上だった。心配ご無用となりCIEも断念したのだ。

 だが実際に「脱漢字」や「脱ひらがな」が実現していたらと考えるとゾッとする。大多数の日本人が「古事記」も「源氏物語」も「坊っちゃん」も読めなくなっているに違いない。便利な点はあっても、文化や歴史は完全に断絶の目にあっていただろうからだ。

 菅直人首相の思いつきによる「脱原発」にも似たようなところがある。ローマ字化と同様に一見、時代を先取りしているかに見える。だが唐突に原発を廃止していけば、エネルギー不足に陥り、産業や経済に深刻な打撃を与えることは明白である。

 そればかりではない。原子炉の製造や運転管理の面で世界の最高水準にあるとされる日本の技術が継承されなくなる恐れがある。原発を動かさなくなれば、宝の持ちぐされになる。大学でも企業でも、優秀な人材が新たに原子力工学を学ぼうとはしないだろう。

 「脱原発」でも、何年か後には「やはり原発が必要」となるかもしれない。だがそのときもう技術がさびついていたらどうするのか。日本語やエネルギーなど国の根幹に関わる政策を思いつきで決めるほど愚策はない。