NAKAMOTO PERSONAL

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「タイムパラドックスを回避する方法」

タイムパラドックスを回避する方法」(WIRED VISION)
 → http://wiredvision.jp/news/201007/2010072923.html

 過去へのタイムトラベルが実現した場合、それによって生じ得る矛盾が回避される代わりに、奇妙で不可思議な出来事が巻き起こるかもしれない。その可能性について検証した研究論文が7月15日(米国時間)、マサチューセッツ工科大学(MIT)のセス・ロイド(Seth Lloyd)氏率いる研究チームによって発表された。
 あらゆるタイムトラベル理論は、「親(祖父)殺しのパラドックス」という巨大な問題と対峙しなければならない。親殺しのパラドックスとは、タイムトラベラーが過去へ行って、[子どもを持つ前の]自分の親を殺した場合、自身もまたこの世に存在することが不可能になり、存在しなくなる。すると、そもそも過去へ行って殺人を犯すことが不可能になる、という矛盾を指す。
 オックスフォード大学の物理学者デイヴィッド・ドイッチュ(David Deutsch)氏はこれに関して、1990年代初めにあるモデルを提唱している。それは、タイムトラベラーが記憶している過去と、経験する過去との間の不一致を許可するというものだ。このモデルでは、自分の祖父を殺した記憶があっても、殺人を実行していない世界に存在することが可能になる。[ドイッチュは、「世界は絶えず無限に分岐し続けており、無限の平行宇宙が存在する」という量子論多世界解釈と絡めてこの矛盾を避ける理論を提唱した]
 これとは対照的に、Lloyd氏が考えるタイムトラベルのモデルは、このような不一致の発生を明確に禁じるものだ。プレプリント・サーバー[学術雑誌に掲載される前の論文の公開に使用されるサーバー]の『arXiv』に発表された今回の論文によると、事後選択モデル(post-selected model)というこのモデルは、後に未来でパラドックスとなりそうな出来事が起こる可能性はあらかじめ除外されるというもので、たとえばタイムトラベラーが自らの誕生を阻止できるなどという不穏な概念は排除される。「われわれのタイムトラベル・モデルでは、パラドキシカルな状況は検閲される」とLloyd氏は語る。
 しかしこの理論は、パラドキシカルな出来事の発生を回避する代わりに、「起こり得なくはないが、通常は起こらないような出来事」の発生率を高める。
 「最初の状況にわずかな変化をもたらすと、パラドキシカルな状況は起こらずにすむ。一見、何の問題もないように思えるが、このことは、パラドキシカルな状況がごく近くに迫っているような場合、そのわずかな変化が極端に増幅されることを意味する」と、米IBM社のワトソン研究所(ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツ)に所属するCharles Bennett氏は話す(Bennett氏は今回の研究には参加していない)。
 たとえば、後にタイムトラベラーが祖父を殺害するのに用いられることになる弾丸が製造される際、異常な高確率で欠陥のある弾丸が作られる、といったようなことが起こる。そうでなければ銃が不発に終わるか、あるいは「ちょっとした量子的ゆらぎによって、弾丸が直前でそれる」ことになるはずだと、Lloyd氏は話す。
 5月にarXiv.orに発表した先行研究において、Lloyd氏のチームは、この事後選択モデルを、光子を用いてシミュレーションする実験を行なっている。光子を過去に送ることはできないが、タイムトラベラーが遭遇する可能性のある状況に似た量子状態に光子を置くことは可能だ。自己矛盾したパラドキシカルな状態に光子が近づくほど、実験が成功する頻度は下がっていき、実際のタイムトラベルも同じような結果になる可能性を示唆した。
 この実験は、時間的閉曲線(closed timelike curve:CTC)という、奇妙な時空間の経路の再現を目的としたものだ。この曲線は、それをたどって移動するすべてのものを過去から未来へと移動させる。アインシュタイン一般相対性理論の方程式は、時間的閉曲線をたどって過去へ行ったタイムトラベラーは、やがて出発地点に戻ってくることを予測している。[時間的閉曲線は、時間が直線的ではなく輪になる(未来がいつか過去につながることを示す)ようなモデルで、アインシュタイン方程式の解として存在することが、ゲーデルによって発見された]
 CTCは、理論上は存在しうるとされるが、実際に存在するかどうかは不明だ。CTCはブラックホールの中など、時空間が劇的に異なった場所に存在する可能性があると推測している物理学者たちもいる。