芥川賞・直木賞
「直木賞に佐々木譲・白石一文の2氏 芥川賞『該当なし』」(朝日新聞)
→ http://www.asahi.com/culture/update/0114/TKY201001140329.html
第142回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が14日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、直木賞に佐々木譲(じょう)さん(59)の「廃墟(はいきょ)に乞(こ)う」(文芸春秋)と白石一文さん(51)の「ほかならぬ人へ」(祥伝社)が選ばれた。白石さんの父は直木賞作家の故白石一郎さんで、初の親子受賞となる。芥川賞は1999年の第121回以来の該当作なしと決まった。副賞は各100万円。授賞式は2月19日午後6時から東京・丸の内の東京会館で開かれる。
佐々木さんは北海道夕張市生まれ。高校を卒業後、自動車会社勤務などを経て、79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール読物新人賞を受賞し、デビュー。「エトロフ発緊急電」で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞など。「武揚伝」で新田次郎文学賞。「ベルリン飛行指令」「警官の血」で直木賞候補。北海道在住。
受賞作は、病気で休職中の北海道警の刑事が、知人らから依頼されて事件を追う連作集。殺人犯の故郷の旧炭鉱町を訪ね、そのすさんだ生い立ちに思いをはせた刑事が、再び殺人を犯した男と再会する表題作など6編を収録する。
佐々木さんは、作家デビューから31年目の受賞について聞かれ、「(賞とは)関係なく書いてきたので長さは意識していない」と話した。「父親が択捉島出身で引き揚げてきた者の子供に生まれて、たえず家族の歴史が頭にある。日本の辺境に生きている者として、意識しないでも登場人物の視点が決まってきた」と北海道へのこだわりをみせた。今後については「組織の中で生きる個人の葛藤(かっとう)を劇的に描くのに警察という組織は掘り下げやすいので、今は警察小説に比重を置いている。歴史冒険小説の分野でもまだ書き残したことがあり、いろんなジャンルで書いていきたい」と語った。
白石さんは福岡市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文芸春秋在勤中に作家活動を始め、2003年に退社。07年「どれくらいの愛情」で直木賞候補。09年「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で山本周五郎賞。双子の弟文郎さんも作家。東京都在住。
受賞作は、名門出身だが平凡な会社員が、結婚に失敗、上司の優しさに触れて真の相手を見つける表題作と、エリートの同僚と婚約しながら、たたき上げの先輩からも離れられず真の愛を求めてもがく女性を描いた「かけがえのない人へ」の2作を収録した。
直木賞選考委員の宮城谷昌光さんは「白石さんの作品は、職業を選ぶことで自己実現するより、ただひとりの配偶者を見つけることが今の若い人の夢なのではないかという視点で描かれ、文章力も優れていた。佐々木さんは前回候補の『警官の血』の余韻があった。あえて休職中の警官を主人公にし、マンネリ化を防いでいる」と評した。
芥川賞は候補5作のうち、藤代泉さん(27)の「ボーダー&レス」、舞城(まいじょう)王太郎さん(36)の「ビッチマグネット」、松尾スズキさん(47)の「老人賭博」が競った。
芥川賞選考委員の池澤夏樹さんは「各委員の推す作品が分かれ、残念なことに賞は出ませんでした。小説は作者が何かを偏愛するところから始まるのに、今回の候補作には何かどうしてもという愛が感じられない。いわば小説を書くことの方が先に目的としてあったように思えるという意見があった」と話した。
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