NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

青年に愬ふ

 大人はずるいものだ。表と裏が別で、口では正義を説きながら裏では利慾をはかり、自らの為し得ざえることを人には要求し、カラクリだの陰謀術数を人生の経緯とし、これを称して人間ができてゐるとか、大人物だとか、申してゐます。青年の純潔さや一本気な情熱などは青二才の馬鹿さ加減と考へてゐるのが常識で、又、悲しむべき現実でもあります。

 青年の純真な動きも、徒党をつくると、いはゆる閥をつくり、排他的になり易いもので、批判力を失つてしまひ易い。

 青年は先づ「ひとり」であることが大切だ。さうして、自分とは何者であるか、何を欲し、何を愛し、何を憎み、何を悲しんでゐるか、それを自覚し、そして自分自身を偽らぬことです。他人が正しくないと云って憤るよりも、自分一人だけが先づ真理を行ふことの満足のうちに生存の意義を見出すべきではないですか。郵便配達夫は先づその職域に於て最善の責務を果すことです。それもできずに、道義退廃だの政治の改革だのと騒いでも駄目です。私は結社や徒党はきらひで、さういふものゝ中でしか自分を感じ得ぬ人々は特にきらひなのです。

 青年は純潔だなどゝ申しても、人間は悲しいもので、年をとると、だめになります。情熱はだんだんあせ、正義よりも私利に傾き、せちがらくなり、ずるくなり、例の大人になります。けれども、我々が大人になると、あなた方青年が生れ、あなた方青年が大人になると、次の青年が生れてゐて、青年は常に無限です。この永遠の青年達の常に変わらぬ真善美への追求と愛は、この地上で最も信頼できるものゝ一つで、青年諸君は他をたよらず、他を指して我が身の口実となさず、先づ自分自身の身辺に於て自らの真善美を行ひ、生かすことです。社会を考へ、徒党を考へるのは、あとのことです。慷慨悲憤は他へ対してゞなく、先ず汝自らの内に向けられるべきです。

 何物を破壊する必要もない。正しいもの、美しい物を造ることによって自ら破壊は行はれるでせう。自らさゝやかな真理を行ふことの自足と追求が大切だ、徒に考へることも不可で、たゞ考へて埒のあくものではなく、まづ正しく行ひ、然してその行ふところを内省して、そこから考へる生活と、次の行為への発展をもとむべきです。諸氏が真に国を憂ふるなら、道は近きにあり、先づその職域に於て本分をつくし、余りあるときに発疹チフスで仆れた偉大なる学徒の如くであって欲しい。徒に徒党を結ぶ必要もなく、例の大人物達に教へを仰ぎ講話などを承る必要は毛頭ありません。重ねて言ふ、大人はずるく、青年は純潔です。君自身の純潔を愛したまへ。

── 坂口安吾(『青年に愬ふ―大人はずるい―』)

今日は成人の日。


学生諸君! さっそうたる明日へのメッセージ

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