NAKAMOTO PERSONAL

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“一喝”

上坂冬子さんを偲び「“一喝”される会」に約70人」(産經新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090629/trd0906292038010-n1.htm

 今年4月14日に78歳で亡くなったノンフィクション作家・上坂冬子さんをしのび、親交の深かった関係者が集まって「上坂冬子さんに“一喝”される会」が29日、東京・九段の九段会館で開かれた。
 かねて「残った者に迷惑をかけるのはイヤ。だいたい葬式に行っても、死んだ本人には会えないんだからしようがないじゃない」と話していた上坂さんの遺志で、葬儀は近親者のみで行われた。しかし、「きちんと別れを告げさせてほしい」との思いから、「天上からの叱責(しっせき)」を承知のうえで担当編集者らが会を企画。約70人が出席した。

  曽野綾子氏は「上坂さんがいたらどう言うだろうと始終思う。それが皆さんの自然な友情の形でしょう」と、30年来の友人をしのんだ。同年生まれの佐々淳行氏は「言わねばならぬことを書き残し、世代責任を果たした女性だった」。靖国問題北方領土問題などをめぐり交流があった小林よしのり氏は「彼女の公を含み込んだ、利己主義でない個人主義が好きだった」と話した。
 上坂さんの没後、新刊本の出版が続いた。文筆の道に進むきっかけとなった雑誌『思想の科学』を創刊した哲学者・鶴見俊輔氏との『対論・異色昭和史』(PHP研究所)、産経新聞1面コラムと雑誌『正論』の連載をまとめた『老いの一喝』(産経新聞出版)、自らが闘うがんの治療について、担当医に疑問をぶつけた『死ぬという大仕事』(小学館)などだ。
 いずれも病床で構成を指示し、推敲(すいこう)を重ねて作り上げた。
 会の最後には、弟の丹羽徹さんが「心のこもった会を開いていただき、上坂冬子からの感謝の“一喝”とご理解いただければ」とあいさつした。

「軸のぶれない姿勢に敬服 張富士夫トヨタ自動車取締役会長 上坂冬子さん死去」(産經新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090417/bks0904172155003-n1.htm
「日本人の矜持守り抜く 上坂冬子さん死去」(産經新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/090420/sty0904200404001-n1.htm


上坂冬子 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%9D%82%E5%86%AC%E5%AD%90
『【書評】『上坂冬子の老いの一喝』上坂冬子著』 http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090629/trd0906292038010-n2.htm


死ぬという大仕事

死ぬという大仕事


老い楽対談

老い楽対談

 懐かしんでいるのではない。いまこそ、あの時代の再現を待望しているのである。最近は親が子を殺し、子が親を殺したニュースにさほど驚かない。

 このだらけ方、たるみ方の一因は“耐乏”という言葉が死語となったせいではないか。商品のみならず人情も運命もすべて欲しいままになる、ならなきゃ元からブッ壊せという錯覚が人間を狂わせた。これはもう、理屈ではない。

 小麦粉もバターもチーズも値上がりしているうちはいい。手に入らなくなったらどうするか。当面は手に入る米の粉やマーガリンで間に合わせればいいが、それもなくなったら耐乏するしかない。

 我慢して耐えるしかほかに方法がない状況の到来を、私はどれほど切望していることか。耐乏精神は努力で身につくものではない。状況の中であえいで育つ。

 耐える姿勢が固まったところで、善悪の基本をばかばかしいほど単純に教育してはどうか。私たちサクラ読本で育った者は、修身の時間に死んでもラッパを離さなかった木口小平を教えられたのはよく知られているとおりだが、木口小平の反対側のページにはよその家にボールを投げ込んだ少年が、詫(わ)びにいった様子が絵付きで示されていた。後の陽明学者、中江藤樹が、藩に仕える身で仕事中に家に立ち寄ってひと休みしようと思ったのを、母親が激しく叱(しか)って追い返した話も教科書で習った記憶がある。物事のケジメを私たちは単純明快に叩(たた)きこまれて育った。

 かつて運動会で1、2等を決めるのすら差別だなどと屁(へ)理屈教育を受けて育った世代が、北京オリンピックではたかがスポーツで世界一の記録を出した選手をナニサマ扱いして興奮した。当てにならない人間を鍛え直すのは屁理屈ではなく試練だ。耐乏精神が育つなら、不況も物価高騰も大歓迎である。

── 上坂冬子老いの一喝


上坂冬子の老いの一喝

上坂冬子の老いの一喝