NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

三浦朱門×曽野綾子

「【新春特別対談】三浦朱門×曽野綾子夫妻」(産経新聞)
 → http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070101/bnk070101001.htm

 曽野 日本は食べ物が有り余るほどあって、お正月も総じて穏やかに過ぎると思います。一方、イラクなどは殺し合いがあったり、昼間はいいけど夜は骨を刺すくらい寒いんですね。電気も止まっていたりする。同じ時に地球に生まれ合わせながら、何千キロ離れているか知りませんが、全く違った生活をしている人がいると思うとつくづく不公平だな、と思いますね。

 三浦 日本に個人として飢えている人がいないとは言いませんが、飢えは社会的問題ではないですね。そんな国は多くないですよ。いつ殺されるか分からない、財産が奪われるかもしれない、秘密警察に連れて行かれるかもしれない−そんな不安のない国はこれまた少ない。「格差」が言われていますが、今のところ日本は世界的にはベターですね。

 三浦 マスコミには例えばイラクが日本と同じような国だと思うと間違うってことを伝えてほしい。日本もイラクも同じアジアで、日本みたいにイラクも民主化できる−とブッシュ大統領が本気で思っていたなら、とんでもない間違い。そこにアメリカの愚かさがあります。国民を誤らせないための情報というのはあるはずです。

 司会 日本と外国の文化の違いというのは、とてつもなく大きいですね。

 三浦 民主主義って、電車で隣り合った人は見知らぬ人でも一定の社会的な関係なんだ、というようなものです。(イラクのように)部族社会だったらいとこ同士の世界です。極端な場合、電車で見知らぬ男と女が隣り合って座るにも抵抗があるでしょう。永井荷風が「あめりか物語」で、電車で妙齢の女性とぎゅうぎゅう席を詰めて座ることに新鮮な感動を感じていると書いてます。少なくとも明治、大正の初期まではそういう感覚が日本にもあった。女性は家族の中で暮らして、社会に出ていかないというような。

 曽野 いとこが1000人、2000人なんですよ。サダム・フセインの親衛隊が2万人いると聞いたけど…。

 三浦 皆、フセインのいとこなんでしょう。

 曽野 「千夜一夜物語」を読んだら、「おじさんの息子」という表現が出てくる。トルコのクルド人のところでも「彼はアンクルのサンだ」と聞かされたことがあります。発想も呼び方も「千夜一夜」と一緒なんですね。

 司会 安倍晋三首相がキーワードにする「美しい国」。日本というのは、ほんとはどんな国でしょう。

 曽野 私は日本って美しい国だと思う。安倍さんの本は、まだ読んでないんですけど。まず、まじめに働く職人がいる。それから水がある。

 司会 同級生が勤めていた大手メーカーがふるわなくなったのです。訳を聞いたら「高卒の職人を大事にしなくなった」と言っていました。

 曽野 私はあまりテレビを見ませんけど、ときどき(職人が)番組に出てらして、町工場で、小さなことを工夫してモノを作っているのを見ると、本当にいい国にご一緒に生まれ合わせたなあと思います。小説家は職人でもあるべきですね。それを怠ったら、頭でっかちの芸術家まがいになる。

 三浦 構造的に飢餓から免れない国は美しくないですね。それからやはり、構造的に危険なところ、不健康なところ、他国に挑発的に出ないと国が成り立たない−なんかは美しくないですよ。すると日本は美しい国になりうる。彼女が言ったように日本人は一応、家族にも仕事にも誠実であるべきだと思っています。匠(たくみ)(職人)はもちろん、新しいものを作ろうという人間があちこちに散らばっている。それが大事なんです。

 曽野 外国は多くの場合、プロがいない。だから日本に住んでる私は天国にいると思ってます。日本は十分いい国だと思う。ただ聖書には「友のために命を捨てる。これより大きな愛はない」と書いてある。今、日本の普通の感覚では「友のためにも命を捨てるのは良くないこと」だとなってます。強権で「捨てろ」と言っちゃいけないけど、自発的に「友のために命を捨てる。これより大きな愛はない」というのは正しいでしょう。

 三浦 友は現実的には同国人です。「愛国心がいけない」っていうのは分からない。

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