自由ついて
平成6年(1994)の今日。11月20日 福田恆存 没。
翻訳家にして劇作家であり、戦後最大の保守思想家。
声高にそして安易に自由や平等、平和、正義を主張する輩が多い昨今、彼はどう見るか。
今日におけるほど、自由ということばが、安易に用いられている時代はない。現在では自由とはたんに逃避というほどの意味に用いられているにすぎぬようだ。それは私たちにとってもろもろの「いやなこと」からの逃避を意味する、労働、奉仕、義務、約束、秩序、規則、伝統、過去、家族、他人、等々からの逃避、それを私たちは自由と呼んでいる。そういう逃避が私たちになにをもたらすかを知るまえに、まず私たちは、それらのものを、堪えがたい「いやなこと」として諒解(りょうかい)しているという事実を見のがしえない。
自由の名において、ひとびとは、求めていたのではなく、逃げていただけのことである。しいていえば、自由そのものを求めていたのである。なにかをしたいための自由ではなく、なにかをしないための自由を。
─― 福田恆存(『人間・この劇的なるもの』)
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