文化の厚み
文化の日
政治、経済、外交などと異なり、文化に関するかぎり、私たちは優劣や希望、絶望の観点からものを見ないほうがよい。文化に関するかぎり、長所は必ず短所に通じるものなのだ。一番大切なことは、自分の長所を知ってそれを助長し、短所を知ってそれを抑制するということよりも、長短とは関わりなく、日本の文化は私たちの「生き方」なのだという、ただそれだけの理由でそれを愛し、それに自信をもつことである。が、その態度はおそらくこうした説得によって得られるものではなく、そういう風にして生きている人を見つけることによってしか得られはしまい。
もし私たちが、物を愛し造る職人を、それを意義づけし、目的を強いる文化人よりも尊重するように心がけさへしたら、日本の文化は今よりも「良く」なるであろうとは言わない。「深く」なり「厚み」を増すであろう。
─― 福田恒存(『文化破壊の文化政策』)