一日一言「富貴と貧」
十一月四日 富貴と貧
富と名声は人がみな望んでいることだが、まことの心をもってこれを得たのでなければ、意味のないことだ。貧しさといやしさは人が嫌うことだが、まことの心で得たものであれば、その富と名声は本当のものとなる。これは『論語』に学んだ。
貴きもまた賎しきも世の中の
人にこゝろの中にこそあれ
子のたまわく、富と貴(たっとき)とはこれ人の欲するところなり。その道を以てせざればこれを得(う)るも処(お)らず。貧(まずしき)と賤(いやしき)とはこれ人の悪(にく)むところなり。その道を以てせざればこれを得るも去らず。君子仁を去りていずくにか名を成さん。君子は終食(しゅうしょく)の間も仁に違(たが)うことなし。造次にも必ずここにおいてし、顚沛(てんばい)にも必ずここにおいてす。
── 里仁第二
孔子様がおっしゃるよう、「富貴を欲するのは人情だからそれを欲してわるいことはないが、それが人生の目的でなくて、仁が最終目的だから、仁にかなう道によったのでなければ、たとえ富貴を得ても君子は安んじない。貧賤をいやがるのは人情だから、それを去ろうとするのはけっこうだが、仁にかなう道によってでなければ、君子は貧賤から去ることをいさぎよしとしない。君子が仁をはなれてどこに君子たるゆえんがあろうや。君子たる者は、一食をすます短い時間でも仁からはなれてはならぬ。サアたいへんというあわただしい際でも、危急存亡の瀬戸ぎわでも、仁を忘れぬが君子というものぞ。」
造次顚沛の間にまごついている今日の私たちにとって、頭上から三斗の冷水をあびせられる大教訓である。「終食の間も仁に違わず」どころか、一日たべることばかりにあくせくして仁のジの字も思い至らぬ私たちがはずかしい。
── 『新訳論語』(穂積重遠)
- 作者: 穂積重遠
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