賢者と愚者
オルテガを読み返す。
賢者は自分がもう少しで愚かになり下がろうとしている危機をたえず感じている。そのため彼は、身近に迫っている愚劣さから逃れようと努力するのであり、その努力のうちにこそ英知があるのだ。ところが愚者は自分を疑うことをしない。彼は自分がきわめて分別に富む人間だと考えている。愚鈍な人間が自分自身の愚かさのなかに腰をおろして安住するときの、あのうらやむべき平静さはそこから生まれている。・・・・・愚者にその愚かさの殻を脱がせ、しばしの間、その盲目の世界の外を散歩させ、力ずくで日ごろの愚鈍な物の見方をより鋭敏な物の見方と比較するように強制する方法はないのだ。ばかは死なねばなおらないのであり、救いの道はないのである。