NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

おれがこの世ですきなのな、眠ることだよ

「なんにしろ、とんでもない仕事だよ。むかしは、理くつにあってたんだがね。朝になると火を消す。夕方になると、火をつける。ひるまは休めたし、夜は眠ったもんだ・・・」
「で、そのあと、命令がかわったってわけだね?」
「命令はかわりゃしないよ。ところで、そこがたへんなことなんで、ものもいえないってわけさ。星は一年ましに早く廻るっていうのに、命令はかわらないときてるんだからなあ」
「すると?」と王子さまがいいました。
「すると、こうだよ。いまじゃ、この星のやつが、一分間にひとめぐりすることになってるんで、おれときたら、一秒も休めなくなったんだよ。一分間に一度、火をつけたり、消したりするんだからな」
「へんだなあ! 一分間が一日だなんて」
「ちっともへんなことなんかないよ。おれたちは、もう一月(ひとつき)も話してるんだぜ」
「一月?」
「そうだよ。三十分。だから、三十日さ。や、こんばんは」
 点燈夫はまた街燈に火をつけました。

「あのね・・・ぼく、あんたが休みたいときに、休む方法を一つ知ってるけど・・・」
「おれは、いつだって休みたいんだ」と点燈夫がいいました。
 人というものは、仕事にまめな一方では、なまけもののこともあるからです。
 王子さまは、つづけていいました。
「きみの星は、ほんとに小さいんだから、三あし歩けば、ぐるりとまわってしまえるね。相当ゆっくり歩いてさえいたら、きみがほしいと思うだけ、ひるまがつづくよ」
「そうしたからって、おれはたいして助からないな。おれがこの世ですきなのな、眠ることだよ」
「そりゃ、こまったね」と、王子さまはいいました。
「うん、こまったよ。や、おはよう」
 そして、点燈夫は、街燈の火を消しました。

── サン=テグジュペリ『星の王子さま』

 あの男は、王さまからも、うぬぼれ男からも、呑み助からも、実業屋からも、けいべつされそうだ。でも、ぼくにはこっけいに見えないひとといったら、あのひときりだ。それも、あのひとが、じぶんのことでなく、ほかのひとのことを考えているからだろう。

星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま―オリジナル版