一日一言「幸と不幸の標準」
二月十八日 幸と不幸の標準
何が福で、何が禍(わざわい)か。昨日までは川の淵だったものが今日は浅瀬となるような変化の激しい世の中で、禍福の区別を定めても何の意味もない。何事も、自分に返ってくることは、みな天のなせるものとして受けとめれば、他人には災難と見えても、自分にとっては福であることもある。幸と不幸の標準は、ただ自分自身の心の持ち方にある。
世の中はつねる飛鳥川
きのふの淵ぞ今日は瀬になる 〈古今集〉
福田さんの幸福論。
失敗すれば失敗したで、不幸なら不幸で、またそこに生きる道がある。その一事をいいたいために、私はこの本を書いたのです。べつの言葉でいえば、自分の幸と不幸とは、自分以外の誰の手柄でも責任でもない。誰もが、いままで誰一人として通ったことのない未知の世界に旅だっているのです。なるほど忠言はできましょう。が、その忠言がどの程度に役だつかどうか、それはめいめいが判断しなければなりません。第一、つねに忠言を期待することは不可能です。
究極において、人は孤独です。愛を口にし、ヒューマニズムを唱えても、誰かが自分に最後までつきあってくれるなどと思ってはなりません。じつは、そういう孤独を見きわめた人だけが、愛したり愛されたりする資格を身につけえたのだといえましょう。つめたいようですが、みなさんがその孤独の道に第一歩をふみだすことに、この本がすこしでも役だてばさいわいであります。
- 作者: 福田恒存
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/09
- メディア: 文庫
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- 作者: 福田恆存
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