NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

最近の老人たちは.....

白髪は知恵のしるしではない。

── 山本夏彦『何用あって月世界へ』

「『最近の老人たちは』と公共の場で若者が眉ひそめる例が増加」(NEWSポストセブン)
 → http://www.news-postseven.com/archives/20141201_289642.html

 人生の手本であったはずの高齢者にどうも「異変」が見られる。金融機関に勤める30代会社員A氏は外回りの途中、東京を東西に貫く中央線で運よく座ることができた。次の取引先訪問に備えて資料をカバンから取り出して読み始めたが、その席が悪かった。

「60代後半か70代と思われる女性グループが、私の横や向かい側に点在して座っていて、大声で喋っていたんです。目の前の通路には立っている人も何人かいるのに、それを飛び越えるように話していて……。しかも会話の内容も嫁の悪口や近所の噂話で、聞くに堪えませんでした」

 電車内で携帯電話を使って大声で話す、ドアの脇を占拠して人が乗り降りしようとしているのに一歩も動かない、そんなマナー違反を目撃することも増えたように感じる。

 少し前は、公共の場で配慮ができない存在といえば「若者」が定番だった。「最近の若いもんは」とはいつの時代も年配者が若者の姿を憂えていう言葉だったが、いまは分別をわきまえているはずのシニア世代が「最近の老人たちは」と若者から眉をひそめられる。

「目撃談」が圧倒的に多いのは、冒頭のように公共交通機関でのマナー違反だ。20代の電子部品メーカー社員の男性は、朝のラッシュ時にこんな経験をした。

「駆け込み乗車してきたおじいさんが、電車のドアに挟まったんです。痛そうだったので最初は心配していたのですが、ドアが開いたとたんに、後ろにいた友達と思しきおじいさんに『今なら乗れるぞ!』と声をかけた。すると今度は2人目がドアに挟まったんです」

 出勤を急ぐ周囲のサラリーマンたちは冷ややかな視線を浴びせていたが、当人たちは「乗れてよかった」と満足げだったという。


安吾

 青年は純潔だなどゝ申しても、人間は悲しいもので、年をとると、だめになります。情熱はだんだんあせ、正義よりも私利に傾き、せちがらくなり、ずるくなり、例の大人になります。けれども、我々が大人になると、あなた方青年が生れ、あなた方青年が大人になると、次の青年が生れてゐて、青年は常に無限です。この永遠の青年達の常に変わらぬ真善美への追求と愛は、この地上で最も信頼できるものゝ一つで、青年諸君は他をたよらず、他を指して我が身の口実となさず、先づ自分自身の身辺に於て自らの真善美を行ひ、生かすことです。

── 坂口安吾『青年に愬ふ―大人はずるい―』