NAKAMOTO PERSONAL

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「みんな仲良く」が危ない理由

「『みんな仲良く』が危ない理由 秘伝公開! 隣のバカ撃退法(養老孟司)」(PRESIDENT Online)
 → http://president.jp/articles/-/13637

 企業から役所まで日本の組織で一番問題なのは「仕事に対する忠実性」だと私は考えています。

 「会社のため」と「仕事のため」という2つの基準が背反した場合、ぎりぎりのところで「会社のため」のほうを選ぶ人がほとんどでしょう。仕事に忠実であれば、当然選ぶべき道があるのに、会社や組織にとってマイナスにならない別の道を選んでしまう。時にはそれが反倫理的、反社会的である恐れもあります。

 会社の利益のために偽装する、会社が潰れることになりそうな不祥事は隠蔽してしまう。そのほうが共同体の内側では利害が一致して、みんな仲良く団結して気持ち良く働けるからです。局所的合理性が全体的合理性に反することになります。

 仕事自体に忠実であろうとすれば、自分が属する共同体の利害とぶつかってしまう。そういう場合にどう行動するか。共同体の内側からだけ見ていると壁の外側の世界が見えません。しかし外側に出てしまえば、内側の一員ではいられない。

 だから、会社で生きる人間にとって今後いっそう大切なのは、内だけでもなく外でもない、壁の上に立った視点を持つことでしょう。

 一方、昨今の職場では能力主義ということが盛んに言われています。それには、そもそも能力が測れるのか、人を見る目がある人間がいるのかという疑問があります。

 状況が変わらぬという前提なら、能力は測れるかもしれない。しかし状況が変われば、能力を測る物差しも変わります。すると、とんでもない人が役立つ可能性があるんです。

 看板を支える人と、そこにぶら下がる人がいるのは組織の常ですが、普段、職場で能力のない問題児だと思われていた人物が、状況の変化次第では一番有能な存在になるかもしれない。戦争で捕虜として収容された施設では、少将・中将など将官はまったく役に立たず、半端な材料から何でも作りだす器用な大工が一番役立ったというエピソードは有名です。

 虫や植物など生物の世界を観察していれば、生き延びるためには多様性が必要だということがよくわかります。人間でも鎌状貧血という病気を起こす遺伝子に関して、次のようなことがわかっています。

 この遺伝子を2つ持っていると、鎌状貧血を起こして死んでしまいます。ところが、そんな不利な遺伝子を抱えた人々が絶滅せず、地中海沿岸で少なからず生き残っています。実はこれが、マラリアの多い地域と一致している。鎌状貧血の遺伝子は、マラリアに対しては強かったのです。

 2つ揃えば貧血で死んでしまうが、1つだけなら、マラリアに罹らずに生き残る確率が少し高まる。何が役立つかは環境次第なんですね。

 したがって、たとえ問題児であっても、様々な人材を抱え込んだ多様性ある職場ほど状況の変化に強いという視点で、職場の人間関係をもう一度捉え直してみるのも一法かもしれません。