NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

木田元

『産経抄』より。

「【産経抄】ヤミ屋から哲学者へ 8月18日」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/life/news/140818/trd14081802560001-n1.htm

 自分は何がやりたいのか、分からない。現代の多くの若者と同じように、20歳前後のころの木田元(げん)さんも悩んでいた。ただし、状況はかなり違っている。

 旧満州で育った木田さんは、昭和20年の敗戦を、広島・江田島海軍兵学校で迎えた。東京に出てぶらぶらしているうちに、テキ屋の手先となる。仕事は、焼け残った軍の倉庫から荷物をかっぱらってくることだ。

 1年後には母親や姉、弟が引き揚げてきた。18歳の木田さんは、今度はヤミ屋となって、家族の生活を支えた。少し余裕ができると、地元山形の農林専門学校に入学する。といっても農業に興味はなく、ひたすら本を読む毎日だった。その中で出合ったのが、ドイツの哲学者、ハイデッガーの『存在と時間』だ。

 なんとなく、冒頭の悩みに答えを出してくれそうな気がして、東北大学の哲学科に進む。木田さんの言葉を借りれば、「ちょっと1回読んでサヨナラというわけにはいかなくなっちゃった」。ハイデッガーの思想を理解するため、ヘーゲルフッサールキルケゴールと研究の範囲は、どんどん広がっていった。

 木田さんが、ハイデッガーについての著作を出すまでに、30年を超える月日が過ぎていた。中央大学名誉教授の木田さんの訃報が昨日届いた。「まわり道ばかりだった」と、著作で人生をふり返った木田さんには、なによりまわり道の大切さを教わった。

 「哲学の勉強なんかしてなんの役に立つのですか?」。一般教養の「哲学」の講義をしていたころ、学生によく聞かれたという。世のため人のためという意味なら、役に立たない。ただし、自分のやりたいことが見つかったという意味では、人生の役に立った。木田さんは、こう答えるのが常だった。

「哲学者の木田元さん死去 ハイデガー研究の第一人者」(朝日新聞
 → http://www.asahi.com/articles/ASG8K4S5TG8KUCLV002.html
「哲学者の木田元さん死去」(NHK
 → http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140817/k10013866681000.html


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哲学は人生の役に立つのか (PHP新書)

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存在と時間〈上〉 (ちくま学芸文庫)

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