NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

あつちへ行つてくれ。


10年も20年も歯抜け状態だった、ちくま文庫版の『坂口安吾全集』。


思い立って古書店より、残りの4冊購入。

20年越しでようやく2全18巻コンプリート。


あとは、“偉くなる”だけ。

 小説を読むなら、勉強して、偉くなつてから、読まなければダメですよ。陸軍大将になつても、偉くはない。総理大臣になつても、偉くはないさ。偉くなるといふことは、人間になるといふことだ。人形や豚ではないといふことです。
 小説はもともと毒のあるものです。苦悩と悲哀を母胎にしてゐるのだからね。苦悩も悲哀もない人間は、小説を読むと、毒蛇に噛まれるばかり。読む必要はないし、読んでもムダだ。
 小説は劇薬ですよ。魂の病人のサイミン薬です。病気を根治する由もないが、一時的に、なぐざめてくれるオモチャです。健康な豚がのむと、毒薬になる。
 私の小説を猥セツ文学と思ふ人は、二度と読んではいけない。あなたの魂自身が、魂自体のふるさとを探すやうになる日まで。
 私の小説は、本来オモチャに過ぎないが、君たちのオモチャではないよ。あつちへ行つてくれ。私は、もう、ねむい。

── 坂口安吾(『デカダン文学論』)