産経vs他紙
翁に曰く、
大ぜいが異口同音にいうことなら信じなくてもいいことだ。
── 山本夏彦(『何用あって月世界へ』)
「特定秘密保護法案」
新聞各紙が反対キャンペーンを繰り広げる中、孤軍奮闘の産経新聞。
産経vs他紙
「【産経抄】本当に少数派? 11月28日」(産経新聞)
→ http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/131128/ent13112803110000-n1.htm
「産経新聞を定期購読している人は決して多くない」。フランス文学者の鹿島茂さんの書き出しの一文には、ショックを受けたものだ。しかし、「多くはないが、その数は減ることはない。いわば強固なる少数派である」と続いて、ほっとする。
実は、『シャネルの真実』(新潮文庫)の解説文から引いた。鹿島さんによれば、「少数派」とは、世間でいうところの「保守派」だけを意味しない。長く小紙パリ特派員を務めたこの本の著者、山口昌子さんのファンであるフランコフィル(フランス好き)も含まれていたという。
購読者の数はともかく、小紙が少数派であることは、間違いないらしい。平成17年10月の、小泉純一郎首相の靖国神社参拝について、全国48の新聞が社説を掲げた。参拝に反対する主張が大半で、「もろ手をあげて支持したのは産経だけである」と、朝日新聞がわざわざコラムで教えてくれた。
その朝日が先日、特定秘密保護法案についても、全国の新聞各紙の社説を検証していた。多くが、反対ないし懸念を表明しているなか、もちろん小紙は意見を異にする。北東アジアの緊張が高まるなか、日本版NSCの創設とともに、安全保障にかかわる機密の漏洩(ろうえい)を防ぐための法整備の必要性を訴えてきた。
といっても、「もろ手をあげて」賛成しているわけではない。国民の知る権利、報道の自由が損なわれることはないのか。一定期間の過ぎた機密の公開の原則は守られるのか。小欄も参院での審議を見守っている。
それにしても、と少数派は首をかしげる。国家機密を守る当たり前の法律のせいで、日本が再び「戦争する国」になってしまう。そんな主張を真に受ける国民が、本当に多数派なのだろうか。
「【浪速風】戦前に逆戻りするとは思わぬ(11月28日)」(産経新聞)
→ http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131128/waf13112811390015-n1.htm
特定秘密保護法ができると戦前に逆戻りする、と声高に叫ぶ新聞(複数)がある。またぞろの論法だが、本当にそうか。秘密主義といえば独裁の共産主義国家こそ最たるものではないか。かつて、迎合して毛沢東を礼賛し、紅衛兵の目は澄んでいる-と書いたのはどこの新聞だったか。
福島県での公聴会で反対論が続出した。そうだろう。政府が放射能影響予測のデータを隠したために不安が広がったのだから。ただし、当時は民主党政権だった。沖縄返還の密約を暴いた元記者が時の人だが、「情を通じて」得たスクープは野党の政治家に渡され、取材源を秘匿できなかったのを忘れてはいけない。
秘密保護法には確かに問題はある。小欄でも触れたが、政府が秘密を乱造し、好き勝手するのではという不信感は拭いきれない。一方で、国家の安全のために秘密にすべきことがあるのも国際社会の厳然たる事実だ。そうでないと、何もかも秘密にする国につけ込まれる。
天の邪鬼で、つむじ曲がりのぼくは、産経新聞を支持する。
言論というものは、実はあんまり重みがないほうがいいのである。新聞の言論はだれも信じるようになったから、世を誤るようになったのである。すこししか信じなければ誤ることもすこしだから、そのほうがいいのである。
── 山本夏彦(『何用あって月世界へ』)