NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

『オツベルと象』

 オツベルときたら大したもんだ。稲扱(いねこき)器械の六台も据(す)えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。


「仲間殺され15頭のゾウが報復、轢いた列車や周辺の民家を“攻撃”。」(Narinari.com)
 → http://www.narinari.com/Nd/20130822621.html

 知能が高く、仲間意識も強いとされているゾウ。世界有数の生息地となっているインドでは先日、群れの1頭が列車に轢かれて命を落とす事故が起きた。そしてこれをきっかけに、人間たちの生活がゾウの強い結束力に脅かされる事態を招いたという。仲間を失った15頭ものゾウが現場付近に居座り出し、専門家らは追い払おうと懸命に対策に乗り出したものの、人間に怒りを見せる群れの攻撃により、鉄道や周辺の家に被害も出たそうだ。


 インド紙タイムズ・オブ・インディアによると、事故があったのは7月31日のこと。インド東部の街コルカタからニューデリーに向かっていた急行列車が、ジャールカンド州マタリ駅を過ぎたあたりで、線路を渡っていたゾウの群れに遭遇した。しかし、当時「最高速で走っていた」列車は急停止できず、接触した群れの1頭が谷間へ転落。命を落とした。

 その後、転落したゾウの悲鳴を聞いて一緒にいた15頭のゾウは興奮し、仲間の命を奪った列車を攻撃。このときの様子について乗客の1人は、当初「何か爆発したような音がしたので、過激派の攻撃を受けたと思った」と言い、しばらく全員が座席から動けなかったそうだが、やがてゾウたちの「鳴き声が聞こえてきて」事情を悟ったと話している。

 ゾウが居座る上に損傷も受けた列車は現場から動けなくなり、乗務員が救助要請を出すと、事故から1時間後に鉄道会社の技術者が現場に到着。火薬を使ってゾウの群れを近くの森へ追い払った後、技術者が列車を次のゴモ駅まで誘導し、乗員・乗客たちは無事に事故をやり過ごしたという。この事故の影響で、周辺各線を走る多くの列車にも2時間から7時間の遅れが生じたそうだが、2日後までにはすべて正常運転に戻ったと鉄道会社が発表し、事故の問題は片付いたかに思われた。

 ところが、近くの森へ退いた15頭が引き下がらずに行動に出始め、実は事故の影響は拡大していた。事故があった7月31日夜には、再び線路沿いへと現れた群れが通過する列車の一部を停めるなどの行動を起こしたため、鉄道会社側は現場を通る列車の乗員に注意を促すとともに、森林管理官の協力も得て「クラッカーを使う」などして群れを森へと誘導した。

 そして翌日朝には専門家らを集め、さらに遠くへ追い払おうと試みたものの、群れは森に留まり続けて作戦は失敗。するとその日の夜、今度は群れが事故現場の方へと移動し始めたため、徹夜で警戒に当たっていた近隣住民らがクラッカーや太鼓を使って追い払おうと威嚇したところ、15頭は近くの村へと進路を変え、約10軒の家を襲撃したそうだ。

 こうした事態を受け、森林管理官は新たに別の専門家たちを招集。8月2日午後に打った対策がやっと功を奏し、ゾウの群れは丘を越えた場所へと移動していった。人間と野生動物が共存することの難しさを痛感させられる、今回の悲劇。タイムズ・オブ・インディア紙の取材に応じた野生生物の専門家は、ゾウは「家族の結びつきが強い」動物と話した上で、群れが列車や家を攻撃したのは、仲間の命を奪い、自分たちの弔い行動すらも妨害してくる人間に対する“報復”だと見ているという。


まるで『オツベルと象』。

 ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに、十一日の月を見て、
「もう、さようなら、サンタマリア。」と斯う言った。
「おや、何だって? さよならだ?」月が俄(にわ)かに象に訊(き)く。
「ええ、さよならです。サンタマリア。」
「何だい、なりばかり大きくて、からっきし意気地(いくじ)のないやつだなあ。仲間へ手紙を書いたらいいや。」月がわらって斯う云った。
「お筆も紙もありませんよう。」象は細ういきれいな声で、しくしくしくしく泣き出した。
「そら、これでしょう。」すぐ眼の前で、可愛(かあい)い子どもの声がした。象が頭を上げて見ると、赤い着物の童子が立って、硯(すずり)と紙を捧(ささ)げていた。象は早速手紙を書いた。
「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出て来て助けてくれ。」
 童子はすぐに手紙をもって、林の方へあるいて行った。

 象は一せいに立ちあがり、まっ黒になって吠えだした。
「オツベルをやっつけよう」議長の象が高く叫ぶと、
「おう、でかけよう。グララアガア、グララアガア。」みんながいちどに呼応する。
 さあ、もうみんな、嵐のように林の中をなきぬけて、グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。どいつもみんなきちがいだ。小さな木などは根こぎになり、藪や何かもめちゃめちゃだ。グワア グワア グワア グワア、花火みたいに野原の中へ飛び出した。それから、何の、走って、走って、とうとう向うの青くかすんだ野原のはてに、オツベルの邸(やしき)の黄いろな屋根を見附(みつ)けると、象はいちどに噴火した。
 グララアガア、グララアガア。その時はちょうど一時半、オツベルは皮の寝台(しんだい)の上でひるねのさかりで、烏(からす)の夢を見ていたもんだ。あまり大きな音なので、オツベルの家の百姓どもが、門から少し外へ出て、小手をかざして向うを見た。林のような象だろう。汽車より早くやってくる。さあ、まるっきり、血の気も失せてかけ込んで、「旦那あ、象です。押し寄せやした。旦那あ、象です。」と声をかぎりに叫んだもんだ。

── 宮沢賢治『オツベルと象』


オツベルと象―版画絵本宮沢賢治

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新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

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