『藝術とは何か』
われわにとって重大な問題は、過去におけるなにを否定するかということではなくて、未来においてなにを望むかということにあります。両者はけっしておなじことではない。ただ現代においては、後者がつねに前者によって決定されているというだけのことだ。そんなばかなことがあっていいはずのものではありません。日常生活においても、だれがおのれの過去の訂正に専念するでしょうか。われわれは過去をほうっておいて──自己の悪をそのままにしておいて──なおかつ未来になにごとかを欲するのであります。それはなにも自己の悪をごましかしたり、見て見ぬふりをしたりすることではない。不誠実ということとはちがいます。処世術ということでもありません。もしこれを不誠実となし、処世術と見るならば、おそらくわれわれは生きる力を失ってしまうでしょう。人間は過去をほうっておいて未来に欲することによってのみ──その未来が到来したときにはじめて──過去の悪が自己のうちに死にたえていることを発見するでありましょう。
翻訳家にして劇作家であり、戦後最大の保守思想家。
格調高き福田節。たまりません。
『福田恆存 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E7%94%B0%E6%81%86%E5%AD%98
- 作者: 福田恆存
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/05
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
- 作者: 福田恒存
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/03
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (49件) を見る
- 作者: 福田恒存,中村保男,谷田貝常夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/04
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (27件) を見る
芸術とはなにかを問うことは、生とはなにかを問うこととおなじであります。