NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

人権侵害?

「ブーケトスは人権侵害だ(AERA) 」(Yahoo!ニュース)
 → http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090525-00000002-aera-soci

──まず最初に、私は嫉妬しているのではありません。
結婚する友人を祝いたい気持ちでいっぱいです。
でも、あの時間だけは許せないんです。──


 チャペルの外に出た。
「独身女性のみなさ〜ん」
 ついにきた、あの時間。
 先日、出席した結婚式で、私(35歳・独身)は気づかぬフリをキメ込んで、よそ見をしていた。なのに、周りの既婚者に「ほらほら」と背中を押された。あんまりイヤそうにすると、祝福ムードに水をさしちゃう。だから、キャーとか言って参加した。
 そう、ブーケトスの時間。
 心の中で「ブーケがこっちに飛んできませんように」と祈った。だって、受け取ったら最後、こうとどめを刺される。 
「次、がんばってね」
 これって、職場で同じことをしたら、セクハラじゃない? 結婚式だから許されているこの習慣、何とかならないの。そう思っていたら、東京都内で出版社勤務のレイコさん(29)に会った。
 話を聞いて、のけぞった。
 レイコさんは昨年10月、静岡に住む友人の結婚式に出た。すると突然、披露宴の途中で、自分の名前を呼ばれた。
「前に出てきてくださーい」
 司会者の声に席を立つと、みんなが一斉にこちらを向いた。「あの人だれ?」という視線が痛かった。
 スピーチは頼まれていない。何だろうと思っていたら、司会者が「花嫁からの花束贈呈です」と言った。
「これって、もしや究極のブーケトス? それも、『名指し式』じゃないの!」
 と思いつつも、精いっぱいの笑みを浮かべて前に出たら、腕にブーケの重みがずしり。
 司会者が「新婦から感謝をこめて」と言うと、背後から拍手が起きた。
 30歳を前に、周りは結婚ラッシュ。この6月までに、半年間で8人が挙式する。レイコさんは仕事一辺倒で、いまのところ結婚の予定はない。ボーイフレンドもいない。友人の結婚はうれしいし、祝福もしたい。
 なのに、ブーケをもらって後味が悪いのは、どうして?


■盛り上がるのは花嫁?

 ブーケトスにワクワクしたころもあった。24歳のとき、兄の結婚式で、ブーケをつかまえようと、必死にジャンプしたっけ。でもいま、ブーケトスは苦痛だ。
「ブーケをキャッチしても、結婚できるなんて誰も信じていないのに、いったい何のためにやっているの?」
 そうそう、私も常々思っていた。盛り上がっているのは、幸せの頂点にいる花嫁だけではないかと。ブーケトスは、「私も続きたい」と独身女性に言わせることで、花嫁が幸せを再確認したいイベントじゃない?
 都内の美容コンサルタント、ミカさん(37)の話も、なかなか強烈だった。
 昨年12月、後輩の結婚式に呼ばれたときのこと。前日は仕事で夜が遅かった。神奈川県にある、海が見える式場までは、電車を乗り継ぎ、ひたすら遠かった。式場にすべりこんだときは、まさに披露宴が始まるところだった。スピーチを頼まれていたミカさんは、ぎりぎりセーフと胸をなでおろした。
 だが……。
 ふと顔をあげると、知っている顔も知らない顔も、こちらを向いて、ミカさんの名前を呼んでいる。
「どこに行っていたの? みんな心配していたのよ」
 えっ? いったい何?
 よく聞けば、チャペルでの結婚式のあと、ブーケトスがあった。そこで、独身女性の名前が次々に呼ばれ、その場にいなかったミカさんの名前は、マイクで連呼されていたという。
 ブーケトス「点呼型」だ。
「まったく。センスなさすぎ」
 ここまで来ると、センスの問題を通りこして、人権侵害にあたると思いませんか。
よく聞くトホホ話
 そもそも、ブーケトスは花嫁の「自己防衛手段」だった。中世ヨーロッパで、結婚式当日の花嫁は、「最高にラッキー」とされ、参列者はドレスを引きちぎって、幸せのおすそ分けを持って帰ろうとした。ドレスを裂かれないために、花嫁がブーケを自分から投げるようになり、次第に「受け取った独身女性が次に結婚できる」と信じられるようになった。
 日本で取り入れられるようになったのは15年ほど前だと、結婚関連産業で仕事をしている友人が教えてくれた。
 最近では、花嫁が投げたブーケがあらぬ方向へ飛んでいったり、床に落ちたりするのを防ぐために、リボンを引いて、くじ引き方式でブーケが当たる「ブーケプルズ」という変形型もあるらしい。
 でも、私は、このごろブーケトスにまつわるトホホな話をよく聞く。
〈独身女性の方は、前に出てきてください、とアナウンスがあっても、誰も出てこなくて場がシラけた〉
〈ブーケを誰も取ろうとせず、床に落ちた。花嫁が振り向く前に、あわてて誰かが拾った〉
 男性の友人(40)からは、こんな意見も聞いた。
「何ていうか、女性特有の、見ていてウザい習慣。結婚を無自覚にすばらしいと決めつけて、未経験者にすすめてあげなきゃってハタ迷惑でしょ。男性が『家、買わないの?』って言われるのも一緒なんだけど」


■トイレに飾ったブーケ

 編集者のマリコさん(36)は3年前から、結婚式に出ていない。お祝いしたくないわけじゃない。個別にプレゼントを贈ることもあるし。けれど、式だけは断固拒否する。
 きっかけは、同僚の結婚式だった。変形型の「ブーケプルズ」だ。リボンを引っ張ると、よりによってブーケが当たってしまった。
「次はマリコちゃんだね」
 と声援が飛んだ。拍手の中、マイクを握らされた。何か感想を言え、ってこと?
〈私も結婚したい。頑張ります〉
 模範解答はこんな感じ? でも言えない。実際は、
「ありがとう」
 とだけつぶやいた。お祝いにふさわしい、ニコニコ顔で。
「『結婚なんてしちゃって!』なんて皮肉は、花嫁に絶対言えない。こちらがお祝いの空気を読んでいるのに、どうして、こちらのことは少しでも思いやってくれないんだろう」
 気持ちのやり場がなくなって、もらったブーケは自宅のトイレに飾り、はがきを出したら届く引き出物ももらわなかった。
 結婚するもしないも、時期も事情もさまざま。なのに「結婚はいいよ」「幸せになりなよ」と押し付ける。ブーケトスはその象徴だ。
 自分が独身だった時代もあったのに、「結婚ハイ」で、無神経になる友人。がっかりして嫌いになるのが怖いから、もう結婚式には出ない、と決めた。
「まあ、そこまで怒らなくてもいいのでは」という意見もあるだろう。しかし、結婚しない30代への風当たりは日ごろから強い。既婚者と未婚者を区別する瞬間、既婚者が勝ち誇って見下すような視線。
 マリコさんは言う。
「結婚しないとダメ人間と責められている気がする」 
 私自身も、2年半前に母をがんで亡くしたとき、複数の人にこう言われた。
「結婚相手や孫の顔を見せてあげれば、お母さんももっと長生きできたんじゃない?」
 母や私を心配し、支えてくれた人たちの言葉に、悪気は微塵もない。根底にあるのは「結婚すればあなたは幸せ、それを見れば親も幸せ」という「結婚原理主義」だ。


■私と妹はフカノウ姉妹

 生前母は、私と妹に向かって、
「あんたたちは、カノウ姉妹ではなくて、(結婚できない)フカノウ姉妹」
 とからかっていた。そして、入院したときは、こう言った。
「つきっきりで面倒みてもらえて、独身娘たちに感謝。子育てしてたらこうはいかないよね」
 その言葉に今、ちょっと救われている。
 みんないろいろあるから、世の中って楽しい。私は何があっても、結婚式でブーケトスだけはやらない。結婚するかどうかはまだわからないけど。

やっぱり嫉妬では......。

個人の好き嫌いの問題を人権問題にされては、何とも。