NAKAMOTO PERSONAL

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【日本の議論】

「【日本の議論】シー・シェパードはなぜ捕まらないのか」(産經新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090308/crm0903081801015-n1.htm

 日本の調査捕鯨に対して暴力的な妨害活動を続ける米国環境保護団体シー・シェパード(SS)。今シーズンの捕鯨にも危険な暴力行為を連発したが、活動家たちは誰1人逮捕されず、刑事罰も受けていない。水産庁は昨年12月、被害を受けたら身柄を拘束し、日本の捜査当局に逮捕させる方針を表明したものの、彼らは全員“無事”に祖国へ帰っていった。日本の調査捕鯨はIWC(国際捕鯨委員会)も認める合法行為。SS活動家の捜査や日本への引き渡しは、海洋航行不法行為防止条約(SUA条約)に基づき、各国にも義務付けられたのに、なぜいまも逮捕されないのか。
ようやく出た「逮捕宣言」
 「対応が甘いと批判を受けた。今回は乗り込まれたら逮捕しようと決めている」。昨年12月10日、水産庁幹部は、調査捕鯨団が南極海へ向けて出発したことを記者団に公表し、そのうえで、妨害を受けたらSS活動家を捜査当局へ引き渡し、逮捕させる方針を明らかにした。
 これまでは「捕鯨妨害の対策は?」と聞かれると、決まって「SSに見つからないように逃げる」と答えていた水産庁。逮捕などをめぐっては「逆にSSの政治活動を宣伝することになる。SSもそれが目的なのだから、挑発にのるべきではない」との認識だったが、このとき初めて“強硬策”を打ち出した。
 理由は、日本側の対応の甘さが世論から厳しい批判を受けたことだった。国会議員や捕鯨関係者からも同様の声が上がっていた。
 南極海で調査捕鯨が行われていた昨年1月には、捕鯨船「第2勇新丸」がSSから妨害を受け、活動家2人に侵入されるという事案まで起きた。日本側は、この活動家2人を拘束したものの、すぐに反捕鯨国オーストラリアに引き渡し、その結果、活動家は間もなく釈放された。活動家らは、捕鯨船のスクリューにロープを巻き付けたり、デッキに薬品をまいたりもしたという。

 水産庁は「SSの挑発に乗らない」という従来の方針に従って、問題を処理したつもりだった。捕鯨の期間は限られているため、問題を長引かせれば、それだけ調査捕鯨ができなくなる。ある水産庁幹部は「近くに仲間の捕鯨船もいなかったし、遠く離れた日本の捜査当局に引き渡すには、大変な時間がかかった」と話す。
 しかし、過激なSSの活動に「対応が甘い」「なぜ釈放させるようなことをしたのか」との批判は強まるばかり。こうした情勢に、石破茂農水相は「毅然とした対応をしなさい」と指示を出し、水産庁はようやく方針を変えたのだ。
水産庁のシナリオ
 日本から遠く離れた公海上で、活動家を逮捕することができるのか。水産庁は昨年、今シーズンの調査捕鯨が始まる前に法務省や警察庁、海上保安庁などと協議し、刑事上の法律や実務について“理論武装”した。
 逮捕した場合、反捕鯨国から強い反発が出ることも予想される。国際法、国内法を問わず、少しでも違法な点があれば、国際問題になり、反捕鯨活動を逆に盛り上げてしまうことになる。水産庁は法的手続きにミスがないよう慎重を期した。その結果できた逮捕のシナリオはこうだった。
 《(1)SS活動家が捕鯨船に乗り込んできたら、日本の船員法に基づいて、乗組員が活動家を拘束する》
 国際慣例では、公海上でも日本の船内は日本の法律が適用される。船員法では、船や乗組員に対して危害を及ぼす行為をする人物に対して、船長が「必要な処置」を講じることを認めており、警察官や海上保安官でなくても身柄を拘束することができるのだ。
 《(2)近海まで海上保安庁の巡視艇などに来てもらい、活動家を引き渡す。逮捕権や捜査権が認められている海上保安官や警察官が、刑法の艦船侵入や威力業務妨害容疑などで逮捕する》

 日本船内での妨害行為には、日本の刑法が適用されるから、日本の捜査機関も刑法に基づいて、活動家を逮捕することができるというわけだ。
 《(3)逮捕後、国内で取り調べを行い、刑事裁判で罪に問うべきと判断されれば、起訴し、裁判にかける》
 艦船侵入罪は3年以下の懲役か10万円以下の罰金、威力業務妨害罪には3年以下の懲役か50万円以下の罰金が科される。乗組員らを傷つければ、さらに重い傷害罪(15年以下の懲役か50万円以下の罰金)が適用される。
 しかし、ことはシナリオ通りに運ばなかった。今シーズンはSSが捕鯨船に乗り込んでこなかったため、日本側も活動家の身柄を拘束できなかったのだ。
乗らなかった? 乗れなかった?
 抗議船はオランダ船籍。たとえ海上保安官や警察官であっても、日本側が進入して、日本の法律に基づいて身柄を拘束することはできない。水産庁幹部は「日本の方針は、海外にも報道などを通じて伝わっているはず。活動家が逮捕を恐れて、捕鯨船に侵入しなかった可能性はある」
 今シーズンの抗議船は昨年12月4日ごろにオーストラリアを出港し、同月中には南極海で調査捕鯨船団を発見した。以降、船団につきまとい、捕鯨妨害などを繰り返した。船団はレーダーなどで、SSが接近するのを確認すると、遠くに逃げて捕鯨を行ったが、何度も追いつかれて妨害を受けたという。
 12月26日には急接近して薬品入りの瓶を投げつけて船に衝突してきた。今年に入ってからも2月6日に2隻の捕鯨船、第2勇新丸と第3勇新丸に相次いで接触したり衝突したりしている。その後同月9日、「燃料が尽きたため、オーストラリアの港に戻る」とウェブサイトで発表。一連の妨害活動を終了して、帰港した。

 乗組員を転覆と死の危険にさらしたという点では許し難い行為だが、活動家らは捕鯨船にロープをかけるなど、乗り込むようなそぶりは見せたものの、結局侵入はしてこなかった。
 捕鯨船団側でも、活動家の妨害や破壊活動を想定して、抗議船とゴムボートに放水したり、ネットを張ったりと、さまざまな対抗策を講じていたため、乗り込みたくても乗り込めなかったのかもしれない。しかし、結果的に、彼らは逮捕を免れた。
豪州当局が家宅捜索
 日本が逮捕できなかった以上、SSが滞在する国外の捜査当局に頼らざるを得ない。
 2月21日、SSの抗議船がオーストラリア当局の家宅捜索を受けたことが発覚した。捕鯨妨害事件で、SSが強制的な捜査を受けるのは初めてだった。
 「これまで何もしてくれなかったオーストラリア当局が大きく変わった」。水産庁幹部は、この動きを評価した。これに先立ち、水産庁は山田修路長官が、駐日オーストラリア公使を呼び出して、対策を講じるように要請していた。そのときの感触から、水産庁幹部は「何らかの動きがあるのではないか」と感じたという。
 ただ、オーストラリア当局が実際に「今後、逮捕する」と言っているわけではない。オランダや米国も、捜査に乗り出したという情報はない。現実に危険な行為を繰り返したSS活動家は、何のペナルティーも受けずにいる。
 日本側では、民事上の損害賠償を起こすことも検討したが、海外の裁判に高額な費用がかかることから、訴訟には尻込みしている。ある捕鯨関係者は「訴訟を起こせるとしたら、団体がある米国か船籍のあるオランダの裁判所だが、反捕鯨国で果たして裁判に勝てるか…」と話す。

「逃げるのはおかしい」
 「反捕鯨という主義主張はあってもいいが、暴力的な手段をとっていいはずがない。海上テロリストではないか」。国内では、SSに対する反発と怒りは根強く、自民党のIWC対応検討プロジェクトチームの林芳正座長はそう指摘する。
 水産庁はこれまでのように“逃げる”一辺倒の姿勢は改めたが、やはり一番の対策は、「見つからないようにすること」という現実は変わらない。林座長は「本来は逃げるというのはおかしい。強盗がいるから、道を歩けないというのは変でしょう」。
 ただ、現実的には妨害活動をやめさせられなければ、捕鯨船団は逃げ回らざるを得ない。海上保安庁も氷の浮いた南極海で長期間活動する捕鯨船団を完全に警備する装備も能力もない。同党の山本公一水産総合調査会長は「SSの暴力活動を訴え、国際的な圧力を強めるしかない。SSの妨害が犯罪だということが、国際的に幅広く認められれば、反捕鯨国もSSに厳しい態度を取るようになる」と話す。
 日本政府は、これまでもIWCなどを通じて、捕鯨妨害の危険性を訴えてきたし、その結果、昨年にSSの妨害に対するIWCの非難決議も出た。
 昨年12月には、SUA条約に基づき、捕鯨妨害を行った疑いがあるSS活動家を国際海事機関(IMO)に名指しで通報。反捕鯨国を含む各国には、自国で見つけた場合、捜査するか日本へ引き渡す条約上の義務が生じている。国際社会では、確実に理解は広まりつつある。
 それでもSSが簡単に捕鯨妨害をやめるかといえば、疑問だ。水産庁は国際圧力を強めるため、さらなる一手を模索しているが、次の冬に始まる調査捕鯨でも、また同じ犯罪行為が繰り返されることが予想される。