NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

『岳』

「10年前にエベレストで亡くなった女性を埋葬しに行った登山家」(らばQ)
 → http://labaq.com/archives/51168465.html

 アメリカ人のフランシスさんは、10年前、エベレスト登山中に亡くなりました。

 頂上から250メートルほどの地点で、彼女は一人ぼっちで遭難していたそうです。凍てつく寒さの中、他の登山家が到着したときには、彼女にはもうほとんど何の力も残っていませんでした。

 そんな彼女が最後に振り絞った言葉は、「私を置いていかないで」だったと言います。

 そのまま凍ってしまい、悲しい姿はそれ以来、通り過ぎる登山家たちの目に留まっていたのです。


 夫婦でエレベストに登頂し、フランシスさんは女性初のエレベスト無酸素登頂を達成したのですが、下山中に彼女の具合が悪くなってしまいました。

 助けを求め、酸素と薬を取りに戻った夫のセルゲイ氏はそのまま行方不明になったそうです。

 「お願いだから私を置いていかないで」

 世界一高いと言われる過酷な山頂で、そう嘆願する彼女を前に、他の登山家はなす術がありませんでした。

 マイナス30度の中、他に選択肢は無く、出来るだけ長く彼女のそばにいたあと、自分たちの登頂をあきらめて彼らはその場を後にしたのです。

 助けを呼ぶために山を降りる間、心のどこかで彼女を置いていくことは、彼女の死を意味しているのだと分かっていました。

 その後、別の登山家グループが到着したときには、すでに彼女は凍死していました。そこからはもう誰も彼女を助けることはできません。

 岩場のある地帯のため、彼女を運んで山を降りることは大きな危険を伴うのです。

 それが1998年のことです。

 それから9年が経っても、彼女はまるで死の象徴のように放置されたままになっており、同じルートを登る登山家たちの視界に入ってきたそうです。

 彼女の明るい紫色の登山ジャケットは雪の中で引き立ち、同じように歪んだ姿勢のまま、横たわり続けていました。

 そして2007年。


 放置して去らねばならなかった登山家のイギリス人のイアン・ウッドオールさんは、彼女を埋葬するために登山することを決意しました。

 「彼女が安らかに眠れるように遺体をアメリカ国旗で包み、視界から保護するために石塚で覆うつもり」と、イアンさんは登山前に語っています。

 50歳になる彼は、ずっと彼女のことが心に引っかかっていたそうです。

 遭難事故の翌年、彼が再び登頂に挑戦したときに、彼女の遺体がまだそこにあるのを見て驚いたそうです。

 山は彼女を決して消化せず、また、そこは頂上への通り道であり、登頂を目指す登山家たちがそこで数時間も費やすことは不可能なのです。

 すでに頂上を制覇した自分くらいしか、この役目を果たせる人はいないだろうと、決意を胸に抱いたそうです。

 「これが最後の登山になる」とイアンさんは言い、2007年5月23日、エベレストへ出発しました。

 悪天候のために予定より遅れたけれど、短いセレモニーを執り行ったあと、北面の(遭難者たちの眠る)山の墓へと彼女を落下させたそうです。

 頂上制覇が目的ではなくとも、過酷なイアンさんの最後の登山に敬意を表したいと思います。

Sport Magazine - Everest - Ian Woodallより

『山でのモットー』

1、困難は自分一人でのりこえる!!


2、誰かの困難は、自分一人でも全力で助ける!!


3、山では、笑う!!

─ 『』より


岳 (1) (ビッグコミックス)

岳 (1) (ビッグコミックス)


岳 (2) (ビッグコミックス)

岳 (2) (ビッグコミックス)