NAKAMOTO PERSONAL

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『文豪・夏目漱石』

「特別展『文豪・夏目漱石』 50年の知られざる全貌」(産経新聞)
 → http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/071008/acd0710082114003-n1.htm

 ロンドン留学時代の蔵書や日記、自ら描いた装丁の原画、喪章をつけた写真、デスマスクの原型…。江戸東京博物館(東京都墨田区)で開かれている特別展「文豪・夏目漱石」がおもしろい。計800点もの貴重な資料が展示されており、日本を代表する作家の生い立ちや文学活動など約50年の生涯の全貌(ぜんぼう)が分かる内容となっている。

 右手をこめかみにあてて首をかしげる漱石。かつてのお札の肖像と並んで、漱石といえばこの図が思い浮かぶほど有名な写真である。ところが、この時代背景が意外なものだ。左腕に腕章のようなものが見えるが、これは明治天皇崩御を悼む喪章。「大喪に際して撮られたうちの一枚」(同館学芸員)なのだという。服喪というイメージでみると、また表情も違ってみえてくる。

 展示は、漱石の誕生から死去まで年代順に6章で構成されている。直筆原稿や写真など豊富な資料を通じて、漱石の知られざる魅力が浮かび上がる。

 たとえば単行本の装丁。ほとんどの作品は画家らによるものだが、『心』や『硝子(がらす)戸の中(うち)』は漱石自ら担当した。『吾輩は猫である』の連載後、漱石自ら猫の顔の部分に自画像を描いた書簡(弟子の小宮豊隆あて)からは、ユーモラスな人柄がのぞく。

 今回の見どころの一つとなっているのが東北大学所蔵の「漱石文庫」だ。漱石の蔵書は約3000冊。本展では、その中から500冊近くと、自筆の「渡航日記」など100点以上の資料を展示している。「渡航日記」は明治33(1900)年9月に横浜を出航したときから記載が始まる。携行品として、衣服のほかに「梅ボシ」「福神漬(づけ)」「下剤」などという記述もあり、きちょうめんな一面を伝えている。

 展示されている蔵書の約400冊はロンドン留学時代に購入した洋書だ。シェークスピアなどの文学作品や評論が中心だが、中にはジョーク集やマナー集も。

 漱石は大正5年12月9日に亡くなるが、臨終の際に石膏(せっこう)で型をとったデスマスクも展示している。ブロンズ製のマスクの原型で、めったに公開されないという。

 今年は、漱石が東京帝大などの教職を辞して朝日新聞社に入り、専業作家の道を踏み出してから100年の節目。国民的作家の偉業を振り返る貴重な機会である。11月18日まで。


江戸東京博物館』 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/