NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

『桜花』

本州では桜が咲き、桜花の季節なのでしょうが。




泣けます。


松本零士『音速雷撃隊』(ザ・コックピット)より。


『桜花 (航空機) - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%9C%E8%8A%B1


 我々はこの戦争の中から積悪の泥沼をあばき天日にさらし干し乾して正体を見破り自省と又明日の建設の足場とすることが必要であるが、同時に、戦争の中から真実の花をさがして、ひそかに我が部屋をかざり、明日の日により美しい花をもとめ花咲かせる努力と希望を失ってはならないだろう。

 彼等は自ら爆弾となって敵艦にぶつかった。否、その大部分が途中に射ち落とされてしまったであろうけれども、敵艦に突入したその何機かを彼等全部の名誉ある姿と見てやりたい。母も思ったであろう。恋人のまぼろしも見たであろう。自ら飛び散る火の粉となり、火の粉の中に彼等の二十何歳かの悲しい歴史が花咲き消えた。彼等は基地では酒を飲み、ゴロツキで、バクチ打ちで、女たらしであったかも知れぬ。やむを得ぬ。死へ向かって歩むのだもの、聖人ならぬ二十前後若者が、酒を飲まずにいられようか。せめても女と時のまの火を遊ばずにいられようか。ゴロツキで、バクチ打ちで、死を恐れ、生に恋々とし、世の誰よりも恋々とし、けれども彼等は愛国の詩人であった。いのちを人にささげる者を詩人という。唄う必要はないのである。詩人純粋なりといえ、迷わずにいのちをささげ得る筈はない。そんな化け物はあり得ない。その迷う姿をあばいて何になるのさ何かの役に立つのかね?
 我々愚かな人間も、時にはかかる至高の姿に達し得るということ、それを必死に愛しまもろうではないか。軍部の欺瞞とカラクリにあやつられた人形の姿であったとしても、死と必死に戦い、国にいのちをささげた苦悩と完結はなんで人形であるものか。

─― 坂口安吾『特攻隊に捧ぐ』


http://d.hatena.ne.jp/nakamoto_h/20040830
http://d.hatena.ne.jp/nakamoto_h/20060917