薪割り指南
鉈(なた)を持った一番最初は、風呂を焚くたきつけをこしらえる為であった。こつんとやると刃物は木に食い込む、食い込んだまま二度も三度もこつんこつんとやって割る。「薪を割ることもしらないしようの無い子だ、意気地の無いざまをするな」と云って教えてくれた。おまえはもっと力が出せる筈だ、働くときに力の出し惜しみするのはしみったれで、醜で、満身の力を籠めてする活動には美があると云った。「薪割りをしていても女は美でなくてはいけない、目に爽やかでなくてはいけない」」というんだから、その頃は随分うるさい親爺だとおもっていた。枕にそえて割る木を立て、直角に対いあって割り膝にしゃがむ。覘(ねら)いをさだめてふりあげて切るのは違う。はじめからふりあげといて覘(ねら)って、えいと切りおろすのだ。一気に二ツにしなくてはいけない。割りしぶると、構えが足りないと云う。玄人以外の鉈は大概刃の無い鈍器なのだから一気に使うものだぞうで、「二度こつんとやる気じゃだめだ、からだごとかかれ、横隔膜をさげてやれ。手のさきは柔らかく楽にしとけ。腰はくだけるな。木の目、節のありどころをよく見ろ。」全くどうしていいのかわからない。父は二度三度して見せた。
平成2年(1990)10月31日 幸田文 没
言わずと知れた、文豪幸田露伴の娘で、表現の美しさ、道徳観は父親譲り。
この血は孫(文の娘)である青木玉、ひ孫の青木奈緒へと、現在も続く。
『幸田文』(Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B8%E7%94%B0%E6%96%87
『幸田露伴』(Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B8%E7%94%B0%E9%9C%B2%E4%BC%B4
『青木玉』(Wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E6%9C%A8%E7%8E%89
『松岡正剛の千夜千冊 「きもの」幸田文』 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0044.html
- 作者: 幸田文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1995/08/02
- メディア: 文庫
- 購入: 9人 クリック: 30回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
- 作者: 幸田露伴
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1994/12/16
- メディア: 文庫
- クリック: 31回
- この商品を含むブログ (51件) を見る
- 作者: 青木玉,森まゆみ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/04/15
- メディア: 文庫
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
- 作者: 青木奈緒
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (1件) を見る