鰐の話
定山渓には既に、氷。
シロワニついでに、久し振りにレオポール・ショヴォの『年を歴た鰐の話』を読み返す。
あの山本夏彦翁、幻の名訳です。
この話の主人公は、大そう年をとった鰐(わに)の話である。
この鰐は若い頃、ピラミッドが建てられるのを見た。今残っているものも、壊されて跡かたもなくなったのも見ている。ピラミッドなどというものは、人が壊しさえしなければ、大地と共にいつまも残っているはずである。
年を歴た鰐は、永い間健康だったが、五、六十このかた、ナイル川の湿気が体にこたえはじめたことに気がついた。
まづ膝が痙攣しだし、続いて手を動かすたびに、肩がもがれるように感じだした。
太陽の熱で、ひび入った岸の泥の上で、日光浴をしてみたが、無駄だった。だんだんリュウマチは重くなって、とうとう動けなくなってしまった。
『山本夏彦』(wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%A4%8F%E5%BD%A6
『山本夏彦研究サイト「年を歴た鰐の棲処」』 http://hw001.gate01.com/namekujiken/natsu/
ショヴォの作品は元来non-sens(ナンセンス)なので、このnon-sensは読者に一人相撲をとらせ、知らず識らず、読者の知恵の限界を露呈させる。作者は「無意味」とい武器で、近代の知性に挑戦して、読者を自在に翻弄していると云えば、又しても文学者流のいやみな解釈になるが、この一巻を全くnon-sensと断じたのはもとより作者一個の試みで、これを読者に強いては面白くない。やはり読者一人々々が己の甲羅に似せたさまざまな解釈を与え、しかもそれに耐え得るところに作品の妙味と含蓄があるのであろう。
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