NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

新訳版『イリュージョン』(2)

自由について。

 「どうか言わせてもらいたい。どうしても自由と喜びを手に入れたければ、それは自分以外のどこにもありはしないよ、そうじゃないかい? 自分には自由も喜びもある、そう思えば、あるんだ! そう振舞えば、自分のものになる! リチャード、いったいなにがそんなに難しいんだろう? だけど、人々は耳を貸そうともしなかった、ほとんどの人がね。奇跡なんだよ――彼らは奇跡を見に、ぼくのところへやってくるんだ。衝突事故を見ようとして自動車レースの見物にやってくるのと同じさ。はじめは、それがフラストレーションになり、やがて、心底うんざりしてくる。ほかの救世主たちはそれにどうやって耐えているんだろう、ぼくにはさっぱり見当がつかない。」

─― 佐宗鈴夫訳版(『イリュージョン』




 「どうしても言いたいことがある。自由が欲しい時は、他人に頼んじゃいけないんだよ、君が自由だと思えばもう君は自由なんだ、リチャード、このことのどこが一体難しいんだ? でも群衆は耳をかそうとしない、ほとんど全員がそんなこと信じられないって言う、自動車レースや象の逆立ちを見たいのと同じなんだ、欲求不満と無関心、これだ、みんな二つしか持っていない、他の救世主はどうやってるのかなあ? 我慢してるんだと思うなあ」

─― 村上龍訳版(『イリュージョン』