内藤濯と『星の王子さま』
「父の分身『星の王子さま』」(読売新聞)
→ http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20060404bk04.htm?from=yoltop
新訳ラッシュをものともせず、内藤濯(あろう)訳の『星の王子さま』(1953年、岩波書店)は断然、読まれ続けている。作家である長男、内藤初穂氏(85)の新刊『星の王子の影とかたちと』(筑摩書房)は、傑出した訳業を果たした父の実像を、あますことなく伝える。
「岩波少年文庫」編集部にいた新婚の佼子さんに、サン=テグジュペリの「Le Petit Prince」の口述筆記を託した時、濯氏は70歳。半年がかりの訳出後、「小さな王子ではこの大きな作品は収まりきれない」と、『星の…』という表題を発案した。
「童心の王子はまさに父の分身。でも明治の人らしく、猛烈に勉強しています」
昨年から相次ぐ20種もの新訳を前に、初穂氏は苦笑する。「いくら表題には著作権がないとはいえ、新訳は新しい題で送り出されるのが望ましい。しかし『星の』とつけなければ売れないとなると、すぐれた新訳も埋もれてしまうし……」。揺れる胸の内を明かす。
評伝の濯氏は美化されてもいない。大政翼賛会の運動にかかわり、敗戦時「騙(だま)された」と言った父を、若き息子は一喝した。最晩年に入院した病院では点滴の針をむしり取り、家に帰ると駄々をこねた姿も描く。
「父は老いを受け入れようとしなかった。94歳で死ぬまで王子さまでしたよ」
けれどもこの親子に流れるものこそ、ユマニスムではないのか。信じた道を貫く強さ、若さは通い合っている。
「『星の王子の影とかたちと』」(『書評』読売新聞)
→ http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20060403bk0a.htm
「『星の王子さま』超えられるか」(『出版トピック』読売新聞)
→ http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20050707bk0c.htm
『星の王子の影とかたちと』 (内藤初穂 著)
『星の王子 パリ日記』 (内藤濯, 内藤初穂 著)
『新訳・星の王子さま』 http://www.tbs.co.jp/lepetitprince/
『星の王子さまミュージアム』 http://www.musee-lepetitprince.com/
“かつて子供だったことを忘れずにいるおとなはいくらもいない”と作者は言っています。まったくその通りで、きのうきょうの世の中のいびつさは、子供でいながら、子供ごころのあどけなさをじっくりと味あわないうちに一足飛びに大人になった──あるいはならされた──たぐいの人が、思いのほか多すぎるところにあるのではないでしょうか。むやみにおとなぶることに煩わされて、物事をそのあるがままに見ていないところにあるのではないでしょうか。この物がたりの作者に言わせると、象を消化させているウワバミの絵だのに、それを帽子だとしてしまうのが、今の多くの大人たちではないでしょうか。
―― 内藤 濯 『星の王子さま』(訳者あとがき)
- 作者: サン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,内藤濯
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/03/10
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