末人たち
郵便受けに、ある新興宗教の小冊子が入っていた。
副題にこうある。
「伝えたい、ほんとうの幸福をつかむ道――」
幸福になりたいのであろう。
“「幸福になりたい」症候群”。
こういった人々を目にする度に『ツァラトゥストラ』の“末人”(おしまいの人間)を思い出す。
見よ。私は君たちにそういう人間、末人を見せてやろう。
《愛とは何か? 創造とは何か? 憧れとは何か? 星とは何か?》――末人はそう尋ねて、まばたきする。
そのとき地球は小さくなっている。小さな地球の上に、すべてを小さくする末人がぴょんぴょん飛び跳ねている。この種族は蚤のように根絶しがたい。末人はもっとも永く生き延びる。
《われわれは幸福を発明した》――末人たちはそう言って、まばたきする。
彼らは暮していくのに厳しい土地を見捨てた。なぜなら暮していくには温みが必要だからである。そのうえ隣人を愛して、隣人に体をこすりつける。温みが必要だからである。
病気になることと不信を抱くこととは、彼らにとっては罪である。彼らは歩き方にも用心深い。石に躓く者、あるいは人に躓く者は愚者とされる!
ときどき少量の毒を用いる。それは快い夢を見させてくれるからである。そして最後に大量の毒を用い、快き死に至る。
彼らもやはり働く。働くことは慰みになるからだ。しかしこの慰みが身を損ねるこねることがないように気をつける。
彼らはもはや貧しくなることも、富むことない。どちらも煩わしすぎるのだ。誰ももう統治しようとしない。誰ももう服従しようとしない。どちらも煩わしすぎるのだ。
牧人は存在しない。存在するのはただ一つの畜群だけである! 誰でもみな平等を欲し、誰でもみな平等である。それに同調できない者は、すすんで気違い病院に入る。
《昔は世の中全部が狂っていたのだ》――そう洗練された人士は語り、まばたきする。
彼らは怜悧であり、世に起こったいっさいについて知識をもっている。だから彼らの嘲笑の種子はつきない。彼らもやはり争いはする。しかしすぐに和解する。さもなければ、胃をそこなうことになるからだ。
彼らはささやかな昼の快楽、ささやかな夜の快楽をもっている。だが健康をなによりも重んじる。
《われわれは幸福を発明した》――末人たちはそう言って、まばたきする――
ツァラトゥストラは、かく語りき。
彼らも幸福を発明したのであろう。
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