NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

桜の森の満開の下

「桜並木、春色アーチ 新ひだか・二十間道路で開花」(北海道新聞
 → https://www.hokkaido-np.co.jp/article/185617
「笑顔満開サクラ満喫 函館、松前で花見客にぎわい 夜桜ライトアップも」(北海道新聞
 → https://www.hokkaido-np.co.jp/article/185201
「花よりバーベキュー 札幌でサクラ満開」(北海道新聞
 → https://www.hokkaido-np.co.jp/article/185408


桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。

 桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。

── 坂口安吾(『桜の森の満開の下』)

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

ねかはくは はなのもとにて 春しなん そのきさらきの 望月の比

(願はくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの 望月のころ)

── 西行