NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

人生に重要なのは「グリット」だ

 人生には解決法なんかないのだよ。人生にあるのは、前進中の力だけなんだ。その力を造り出さなければいけない。それさえあれば解決法なんか、ひとりでに見つかるのだ。

── サン=テグジュペリ『夜間飛行』


「健康、仕事、人生に重要なのは『グリット(やり抜く力)』だ」(ライフハッカー
 → http://www.lifehacker.jp/2016/06/160620developing_mental_toughness.html

人を優れたアスリートにするものは何でしょうか? 優れたリーダーにするものは? 優れた親にするものは? なぜ目標を達成できる人とできない人がいるのでしょうか? 両者のどこに違いがあるのでしょうか? 答えは「精神力」です。
たいていこうした話題になると、一流の人たちが持つ優れた才能が引き合いに出されます。彼は研究室で最も頭脳が明晰な科学者だ。彼女はチームの誰よりも足が速い。彼は最高に頭が切れるビジネス戦略家だ。しかし、本当は才能より重要なものがあることを、誰もが気づいているのだと思います。
実際、きちんと調べてみれば、才能や知能が思ったほど重要な役割を果たしていないことがわかります。では、才能や知能よりも大きな影響力を持っているものは何でしょうか? そう、精神力です。
研究により、健康、仕事、人生のゴールを達成するうえで、精神力がほかの何よりも重要な役割を果たすことがわかってきました。研究者たちはこうした精神力のことを「グリット」(Grit:やりぬく力)と呼んでいます。
これは良いニュースです。生まれつきの遺伝はどうすることもできませんが、精神力は鍛えることが可能だからです。
では、なぜ精神力はそれほど重要なのでしょうか? どうすれば育てられるのでしょうか?


精神力と米国陸軍

毎年、およそ1300人の士官候補生が米国陸軍士官学校「ウェストポイント」に入学します。最初の夏、士官候補生たちに過酷な試練が与えられます。この最初の夏季基礎訓練のことを内部では「ビーストバラック」と呼んでいます。
ウェストポイントの士官候補生を研究した研究者らによると、「ビーストバラック候補生の身体的、感情的、精神的な力の限界を試すように組み立てられている」そうです。
ビーストバラックをやり遂げた士官候補生は、途中で挫折した士官候補生に比べて、体が大きい、体力がある、知能が高い、などの特徴を持っていると思うかもしれません。しかし、ペンシルベニア大学の研究者、アンジェラ・ダックワース氏による研究で、全く別の要因が見つかったのです。
ダックワース氏は、精神力や忍耐力、情熱といった要素が、ゴールの達成にどのような影響を与えるかを調べています。ウエストポイントでは、2クラス分にあたる2441名の士官候補生が調査対象となりました。士官候補生たちの高校時代の成績、SATスコア、リーダーシップ・ポテンシャル・スコア(課外活動への参加を加味)、PAE(標準的な体力テスト)、グリット・スケール(長期的なゴールに対する忍耐力や情熱を計測)などのデータを集め、比較調査を行いました。
調査の結果わかったこと:士官候補生がビーストバラックをやり遂げられるかは、体力や知能、リーダーシップ・ポテンシャルでは予測できない。明暗を分けたのは、長期的なゴールに対する情熱と忍耐力、すなわち「グリット」である。
実際、グリットの標準偏差が1段階高かった士官候補生は、ほかの士官候補生に比べて、60%多く、ビーストバラックをやり遂げていました。士官候補生が将来良い成績を残すかどうかを予測するのは、才能や知能、遺伝的要素ではなく、精神力だったのです。


どんな場面で精神力が役に立つのか?

ダックワース氏の研究は、さまざまな分野において精神力が重要であることを明らかにしました。同氏は、ウェストポイントの研究のほかに、次のような発見をしています。

  • アイビーリーグの学部生を調べたところ、SAT(大学進学適性試験)スコアが低く、あまり「頭がいい」と言えなかった学生でも、グリットのスコアが高かった者は、ほかの学生に比べて、GPA(大学の成績)が高かった。
  • 年齢が同じで、教育レベルが違う二者を比較したとき、最終的にどちらが高いレベルの教育を修めるかをより正確に予測できるのは、知能ではなくグリットである。
  • 英単語のスペリング力を競うコンテスト「スペリング・ビー」で高い成績を収めるのは、IQが高い者ではなく、グリットがあり、根気強く訓練を続けられる者である。

精神力やグリットが重要な役割を果たすのは教育分野だけに限りません。ダックワース氏らは、さまざまな分野で高い能力を発揮している人びとにインタビューを行い、どんな分野にも似たような傾向が見られることを突き止めました。

投資銀行、絵画、ジャーナリズム、学界、医療、法律など、さまざまな分野で活躍するプロフェッショナルのインタビューを行うなかで、高い業績を残すためにはグリットが不可欠である、という仮説が浮かび上がってきた。それぞれの分野で、一流の人に見られる特質とは何かと尋ねたところ、才能と同じくらい、グリット、あるいはその同義語を答える人が多かった。実際、才能がそれほどあるとは思えなかった人が、長期間、粘り強く努力し続けた結果、優れた業績を達成したケースを見て、感銘を受けたことがあると答えた人が大勢いた。同じく、並外れた才能を持っている人が、結果的に一流になれなかったケースを見て驚いたと答えた人も多かった。

こちらで研究論文(英文)が読めますが、要点は以下です。
教育、仕事、健康、人生のどんな領域においても、グリット、精神力、忍耐力といったものが、ほかのどんな要素よりも成功に大きな役割を果たす。言い換えれば、才能は過大評価されている。


何が精神力を強くするのか?

精神力、グリット、忍耐力の大切さはわかりました。しかし、こうしたものは現実世界ではどのように表れるのでしょうか? ひとことで言えば、精神力やグリットとは、一貫性のことです。
精神力が強いアスリートは、そうでないアスリートに比べて一貫性があります。一流のアスリートは基礎訓練を絶対に欠かしません。決められたメニューを確実にこなします。どんなときでもチームメイトを助けようとします。
精神力が強いリーダーは、そうでないリーダーよりも一貫性があります。毎日何のために働いているのか、ゴールを明確に意識しています。目先の利益やネガティブな意見、忙しいスケジュールに振り回されることもありません。いかなる状況においても、周囲の人びとを鼓舞し続けます。
精神力が強いアーティストや作家、ビジネスマンは、一貫性のある行動をとります。きっちりとスケジュールを守り、気分に左右されることはありません。アマチュアではなくプロの姿勢で仕事に臨みます。重要なことを先にやり、責任から逃れようとはしません。
良いニュースは、生まれ持った才能に関係なく、グリットや忍耐力を身に付けることは可能だということです。一貫性のある行動をとることはできます。人並み外れた精神力を身に付けることだって不可能ではありません。
ではどうすれば? 私の経験では、実際に効果があるのは次の3つの戦略です。


1. 自分にとって精神力の強さが何を意味するかを定義する

ウェストポイント陸軍士官候補生にとって、精神力が強いとは、ひと夏の「ビーストバラック」をやり遂げることを意味していました。では、あなたにとっての精神力の強さとは...。

  • 1カ月間、一度も休まずトレーニングを続ける
  • 1週間、加工食品や包装食品を使わない食事を続ける
  • 2日間連続で、仕事を予定より早く仕上げる
  • 今週いっぱい、毎朝瞑想をする
  • 今日、トレーニングを1セットずつ増やしてみる
  • 今月いっぱい、友人を1人選び、毎週土曜日に電話をかけて近況を話し合う
  • 今週いっぱい、毎晩1時間かけて、何かクリエイティブなことをする


何をするのであれ、達成目標を明確にしてください。精神力というのは抽象的な概念ですが、現実の世界では必ず何らかの具体的な行動と結びついています。精神力を強くする魔法はありません。精神力とは、現実の生活のなかで具体的な目標を達成していくことで、はじめて培われるものなのです。
ここから、2つめのポイントが導かれます。


2. 精神力は小さな達成を通じて培われる

精神力といえば、たいてい、極端な状況に陥ったときに何ができるかという話になります。決勝戦でどんな試合ができたか? 家族の死の悲しみのなかで、落ち着いた日常生活を取り戻すことができたか? 事業が失敗した後、復活できたか? こうした極端な状況において、勇気や忍耐力、精神力が試されるのは間違いありませんが、普通の日常生活においてはどうなのでしょうか?
精神力は筋肉と似ています。強くしたければ鍛錬せねばなりません。小さな試練を何度も乗り越えた経験がない人は、困難な状況に出会うと、どうすることもできなくなります。ですので、日頃から小さな訓練を怠らないようにしてください。
9セットのワークアウトが楽にできるなら、10セットやってください。消費するのが簡単なら、創造する側に回ってください。すぐにわかった気になるのなら、より突っ込んだ質問をしてみます。小さな困難に繰り返し挑戦して、あなたが人生のリングで戦う闘志があることを示してください。
精神力は小さな達成を通じて培われるものです。精神力の筋肉を鍛えられるかどうかは、あなたが毎日行う選択にかかっています。誰もが精神力を強くしたいと思いながらも、そのために何をすればいいかを考えません。精神力は具体的な行動を通してはじめて鍛えられることを忘れないでください。


3. 精神力はやる気ではなく習慣に関するものである

やる気は移ろいやすく、意志の力は強くなったり弱くなったりします。
精神力が強いとは、極端な勇気ややる気を出せることではありません。スケジュールをきちんと守り、困難や障害を乗り越えていけるような毎日の習慣を築けるかということです。
精神力が強い人とは、より勇気があったり、より才能があったり、より知能が高い人のことではありません。より一貫性がある人のことです。精神力が強い人は、人生にいかに多くの障害があろうと、重要なことにフォーカスし続けられるようなシステムを構築しています。それは、信念の基礎となり、あなたを遥かな高みへと連れていってくれる、毎日の習慣です。
習慣についてはこれまで何度も書いてきました。新しい習慣を築くための基本的なステップと、そうしたステップを実践するための情報がこちらにあります。


結局、精神力の強さは毎日の習慣に行き着きます。それは、継続してやり続けるべきだとわかっていることを、やり続けるということです。毎日の実践にどれだけ本気で取り組み、スケジュールを守れるかということです。
共同体としての私たちの使命は明確です。健康的な生活を営み、世界をより良い場所にすることです。そのゴールに向かうなかで、みなさんが健康な生活を送り、幸福になり、仕事や人生に変化を起こせるように、ベストな情報、アイデア、戦略をお届けすることが私の役割だと思っています。しかし、いかなる戦略を学んでも、いかなるゴールに照準を合わせても、自分自身や周囲についてどんな視点を持てたとしても、強い精神力や忍耐力、グリットがなければ、現実の問題に対処することはできません。
多くの人は、状況が困難になると、より簡単にできることを探そうとします。精神力が強い人は、困難な状況のなかで、どうすればスケジュールを守れるかを考えます。たしかに極端な勇気、レジリエンス、グリットが要求される極端な状況というものもあります。しかし、人生の95%の状況においては、精神力が強いとは「ほかの多くの人よりも一貫性がある」ことを意味するのです。

The Science of Developing Mental Toughness in Your Health, Work, and Life | James Clear

夜間飛行 (新潮文庫)

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