私は、もう、ねむい。
あつちへ行つてくれ。
私は、もう、ねむい。
小説を読むなら、勉強して、偉くなつてから、読まなければダメですよ。陸軍大将になつても、偉くはない。総理大臣になつても、偉くはないさ。偉くなるといふことは、人間になるといふことだ。人形や豚ではないといふことです。
小説はもともと毒のあるものです。苦悩と悲哀を母胎にしてゐるのだからね。苦悩も悲哀もない人間は、小説を読むと、毒蛇に噛まれるばかり。読む必要はないし、読んでもムダだ。
小説は劇薬ですよ。魂の病人のサイミン薬です。病気を根治する由もないが、一時的に、なぐざめてくれるオモチャです。健康な豚がのむと、毒薬になる。
私の小説を猥セツ文学と思ふ人は、二度と読んではいけない。あなたの魂自身が、魂自体のふるさとを探すやうになる日まで。
私の小説は、本来オモチャに過ぎないが、君たちのオモチャではないよ。あつちへ行つてくれ。私は、もう、ねむい。
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/09/17
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (43件) を見る
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/10/16
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 44回
- この商品を含むブログ (39件) を見る