『人間・この劇的なるもの』
自然のままに生きるという。だが、これほど誤解されたことばもない。もともと人間は自然のままに生きることを欲していないし、それに堪えられもしないのである。程度の差こそあれ、だれでもが、なにかの役割を演じたがっている。また演じてもいる。ただそれを意識していないだけだ。そういえば、多くのひとは反撥を感じるであろう。芝居がかった行為に対する反感、そういう感情はたしかに存在する。ひとびとはそこに虚偽を見る。だが、理由はかんたんだ。一口にいえば、芝居がへたなのである。
── 福田恆存(『人間・この劇的なるもの』)
- 作者: 福田恒存
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1975/05/10
- メディア: 文庫
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