NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

忘れるな。近道は、罠だ

「人生に近道なんてない。成功は努力の先にある」(ライフハッカー
 → https://www.lifehacker.jp/2018/11/if-youre-looking-for-a-shortcut-youre-doing-the-wrong.html

ダイエットであれ、新しいスキルの習得であれ、手の込んだ夕食の準備であれ、手順を簡単にする方法はたくさんあります。

ですが、効率をアップすることと、努力を全く怠ることには大きな違いがあります。

「すごい近道」などというものはありません。やるべきことをせず、近道を探すことのほうに多くの時間を費やしている人は、そもそもなぜ自分がその作業をしているのかを考え直してみるべきです。


「スピードアップ」=「努力を怠る」ではない
私たち米Lifehackerの編集部は、便利なショートカット(近道)について、いつも考えています。もっと速くタイプできるようになるショートカット、メールの受信トレイを空っぽにするショートカットなどなど。

こうしたショートカットの目的は、工夫をこらして効率をアップすることです。

ところが、「ライフハック」ムーブメントが広まるにしたがい、これに便乗して、実際の努力に代わる「手抜き」や、「一攫千金」のためのショートカットを広める人も増えてしまいました。


甘い言葉の裏側
これらは目新しいものではありませんが、何かにつけて効率がもてはやされる時代の中で、一種カルト的な称賛を得ています。そして人々は、スピードアップと手抜きを取り違えるようになってしまいました。

一例として、ティム・フェリス氏を一躍有名にした著書「週4時間」だけ働く。(邦訳:青志社
を取り上げてみましょう。フェリス氏は同書の中で、仕事を外注したり、自動化したりすれば、週4時間働くだけでも大金を稼ぐことは可能だと主張しています。

こうしたコンセプト自体は決して目新しいものではありません。また、アドバイスとして根本的に間違っているわけでもありません。実際、スケールを小さくすれば、こうしたことは誰にでもできます。お金のやりくりを自動化することで、もっと簡単にお金が貯まるようになります。雑務をアウトソーシングすることで、自分の好きなことをする時間が手に入ります。

けれども、週4時間働くだけで、本当にリッチになれるのでしょうか? たぶん無理でしょう。

早い話、フェリス氏は、高学歴で裕福で、白人で、子どももいない男性なのです。そんな特権階級の彼が、同じような立場にいる人たちにアドバイスを与えているのです。同じような環境にいる人は良いでしょう。しかし私たちの大半は、食事の支度やら何やらで忙しすぎて、フェリス氏が言う「ライフハック」の実践など、考える余裕さえありません。


近道は持続的な習慣を作らない
こうしたトリックは、効率をアップするためのものではなく、仕事を回避するためのものです。自己啓発の権威たちは、仕事というものを、愚かな「時間の無駄」であり、取り除くべきものとみなしがちです。こうした基本姿勢は、痩せたり、スキルを身につけたりするのに必要な努力についても同じです。

手っ取り早く痩せたい? ドクター・オズのやり方なら、がんばらなくてもやせられますよ! 外国語を学びたい? 大丈夫、1週間で身につきます!

まったく馬鹿げています。

たしかに、すぐに結果は現れるかもしれません。けれども、こうして得られた結果は、消えてしまうのもあっという間です。

こうした「近道」は、持続可能な習慣をつくらないからです。

あなたは、実際には長期的な失敗であるものを、短期的な成果だと思い込みます。そして結局、どこで間違ったのだろうと頭を抱えることになります。必然的に、自分の失敗は個人的なものだと思い込み、自分を責め、性懲りもなく、また別の自己啓発本を買ってしまいます。


「努力」という言葉が持つイヤなイメージを取り除こう
本当の問題は、「努力」に対する私たちの捉え方です。

努力は、避けるべきネガティブなものと捉えられがちです。けれども、もしあなたが自分の人生に大きな変化を起こしたいと本気で思っているなら、この見解は改めなければなりません。

事を為すために必要な努力について、不平不満を言うのはやめましょう。ライフハックの目的は、労力を無駄にせず、スピードと効率をアップすることです。散らかったアパートの部屋や、目が回るほど忙しい仕事に効く妙薬があると、自分をだまして信じ込むことではありません。

外国語を新たに学ぶこと、昇給すること、痩せること。このどれにも、努力が必要です。その達成に必要な努力がわずらわしく感じられるのであれば、その目標はあなたにとって、それほど大きな意味を持っていないのかもしれません。


現実に目を向けて、改善する
仕事も同じです。必ずしも、誰もが自分の情熱を追いかけ、自分の仕事を愛せるわけではありません。けれどもだからといって、仕事を嫌いである必要はありません。

気がつくと努力を避ける方法を探しているという人は、今まさに転職すべき時なのかもしれません。多くの人にとって転職は簡単なことではありませんが、辞めなくても、自分の仕事の改善を試みたり、ゆっくりと慎重に転職の計画を立てたりすることぐらいならできると思います。

くり返しになりますが、ここにも近道などありません。必要なのはスマートなプランニングです。


即効薬なんて存在しない
近道ばかり探しているときには、実際の仕事を軽視しています。そんなことをしていては、長期的に見てネガティブな影響を受けることは避けられません。あなたがきちんと仕事していないことが、上司にばれてしまうでしょう。どこかにほころびが出てくるでしょう。

こうした考え方の餌食になり、なんらかのライフスタイルの変化がもたらしてくれる価値に、過大な期待をしてしまうことは誰にでもあります。

しかし、すべてを変えてくれるたった1つの解決策などありません。幸せに生きるためには(幸せという言葉が、あなたにとってどんな意味を持つにせよ)、それに向かって努力する必要があります。そうである以上、「努力」という言葉をネガティブに捉えるのはやめるべきなのです。


露伴先生、努力を語る。

 努力は好い。しかし努力するということは、人としてはなお不純である。自己に服せざるものが何処かに存するのを感じて居て、そして鉄鞭を以てこれを威圧しながら事に従うて居るの景象がある。
 努力して居る 、もしくは努力せんとして居る、ということを忘れて居て、そして我が為せることがおのずからなる努力であって欲しい。そうあったらそれは努力の真諦であり、醍醐味である。

 努力して努力する、それは真のよいものではない。努力を忘れて努力する、それが真の好いものである。しかしその境(さかい)に至るには愛か捨(しゃ)かを体得せねばならぬ、然らざれば三阿僧祇劫(さんあそうぎごう)の間なりとも努力せねばならぬ。愛の道、捨の道をこの冊には説いて居らぬ、よってなおかつ努力論と題している。

── 幸田露伴(『努力論』)

努力論 (岩波文庫)

努力論 (岩波文庫)

幸田露伴の語録に学ぶ自己修養法

幸田露伴の語録に学ぶ自己修養法