読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

追悼・渡部昇一先生

「【追悼・渡部昇一さん】言論界の巨大な星 深い教養が生んだ正義の人 杏林大学名誉教授・田久保忠衛」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/170419/clm1704190004-n1.html

 初めて渡部昇一さんとお会いしたのは40年ほど前、ラジオの番組でした。当時、渡部さんはベストセラー『知的生活の方法』で知られる上智大の若手教授。私は時事通信の記者で、2人で対談をやりましてね。第一印象は、こんなスマートな人がいるのか、という驚きでした。体もスマートなら言うことも非常にシャープで、背景には万巻の読書があるのだろうと思わされた。以来40年、「渡部昇一の新世紀歓談」(テレビ東京)など、渡部さんがホスト役を務めるさまざまな番組に、ずいぶん呼んでいただきました。

 最後にお会いしたのは、先月末のことでした。あまりに痩せられていたので、びっくりしましたね。声も非常に細かった。その際の渡部さんの主たる関心は、米国トランプ政権で国際状況がどう変わり、日本はどうしたらいいか、ということでした。最後まで日本の行く末を考えていた。

 渡部さんの一貫した関心は、日本の現状に対する憂いでした。国家の基本問題である外交、防衛、教育がなっていない、と。そういった国体の問題、つまり皇室の問題にも関わる憲法について、これを早く改正しなければ、と終始一貫説いていた。その点で安倍晋三首相を支持し、書斎派の知識人でありながら実際の運動にも一生懸命に携わった。勇気あるまれな人だった。いまは保守の流れが大きくなっていますが、そのずっと前から一人で戦いを続けてきた渡部さんは、まさしく保守の中心的存在でした。その源流が大きな流れとなってこれから前に進んでいけば、渡部さんも本望でしょう。

 直接接して感じた人柄は、人事やお金など小事への執着がない。天下国家ばかりを論じていた。あまり他人の悪口を言う人ではありませんでしたが、人の倍も3倍もいろんなものを読んでいますから、同じ保守派に対しても批判するときは「あのときはあの雑誌にこういうことを書いていた」と痛烈にやっつける。

 著作の中で特筆すべきは、やはり歴史ものですね。学問の世界から、一般の人が読みやすいものに変えた。これで国民がどれだけ助かったか。皇室の問題から学界で議論されている細かなテーマまで、あの人らしい柔らかい表現で、中学生でも分かる本にした。これは巨大な仕事です。

 いろんな分野でタブーなき言論を行った勇気ある知識人であり、しかもその発言は正義感と深い教養に裏打ちされていた。渡部さんは日本の言論界にとって、巨大な星のような存在でした。(談)

 評論家・英語学者で第1回正論大賞を受賞した渡部昇一さんは17日、心不全のため死去。86歳だった。

【プロフィル】田久保忠衛

 たくぼ・ただえ 昭和8年、千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。博士(法学)。時事通信社を経て、杏林大学教授。専門はアメリカ外交、国際関係論。第12回正論大賞受賞。著書に『戦略家ニクソン』(中公新書)など。


「【産経抄】95歳までの知的生活 4月19日」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/170419/clm1704190003-n1.html

 渡部昇一さんのベストセラー『知的生活の方法』を読んだのは、大学生時代である。読書の技術から、カードの使い方やワインの飲み方まで、大いに「知的」な刺激を受けた。ただ、実践には至らなかったのが、40年たった今でも悔やまれる。

 渡部さんによれば、「知的生活」の原点は、旧制中学での恩師との出会いだった。佐藤先生の英語の授業がなかったら、英語学を一生の仕事にすることはなかったという。先生の自宅を訪ねると、英語の本はもちろん、天井まで和漢の書物が積んであり、全て読了していた。

 「佐藤先生の如(ごと)く老いたい」。渡部少年の願いは十分かなえられた。77歳のとき、2億円を超える借金をして家を新築し、友人たちを驚かせた。巨大な書庫には、なんと和洋漢の本15万冊が収蔵されている。80歳を超えてからも、ラテン語の名文句や英詩の暗記を欠かさず、「記憶力自体が強くなった」と豪語していた。

 ただ渡部さんには、佐藤先生のような「平穏な知的生活」は、許されなかった。広範な読書と鋭い洞察力に裏付けられた評論活動は、しばしば左翼・リベラル陣営から激しい攻撃を受けてきた。渡部さんは、「自由主義を守る」との信念のもと、一切怯(ひる)むことはなかった。

 正論メンバーでもあった渡部さんの訃報には驚いた。雑誌『正論』の4月号で論文を拝見したばかりだったからだ。「アングロサクソン文明圏の先進性」の観点から、トランプ米大統領を論じ、日本の進む道を示す内容だった。

 昨年刊行したばかりの『実践・快老生活』には、こんな記述がある。「九十五歳くらいまで歳(とし)を重ねれば死ぬことさえ怖くなくなる」。86歳の渡部さんにとって、あと10年近くは「知的生活」が続くはずだった。