周りを思いやれる大人に
「【主張】成人の日 周りを思いやれる大人に」(産経新聞)
→ http://www.sankei.com/column/news/170109/clm1701090002-n1.html
「成人の日」を迎えた20歳の皆さん、おめでとう。大人としての自覚と責任を胸に刻み、豊かな人生に向けて新たな一歩を踏み出してほしい。
若い世代を取り巻くさまざまの困難な環境を考えるとき、祝意を込めて希望に満ちた話を申し上げるより、むしろ、どんなに努力しても自分の思うようにはならないことがたくさんあるのだと、厳しい現実を指摘しておいた方が新成人のためにはよいのかもしれない。
夢を持つな、希望を捨てろというのではない。どうせ無理だと端(はな)から投げ出したのでは、豊かな人生は決して手に入らない。夢や希望を大切にしつつ、同時に、なかなか思うにまかせない世間の冷厳な一面を知ることも、大人には欠かせぬ要件の一つである。
評論家の福田恆存は、幸福論は本来、幸福を獲得する法でなく、不幸に耐える術を伝授するものだと説いたが、苦境に陥ったときにこそ大人の真価は発揮されよう。世の不条理を嘆くだけでは何も始まらない。現実をしっかりと踏まえた次の一手を探ることが大人の分別というものに違いない。
酸いも甘いも噛(か)み分けた処世法とはきっと、こうして身についてゆくのだろう。
大人の要件をいま一つ加えれば、家族ら周りの人々の支えに甘えてきた子供の頃とは違って、有縁無縁の力に感謝し、これからは周りを支える立場になるのだと決意を新たにすることである。
昨年の成人の日(1月11日)の「主張」では、震災直後の混乱のさなかに産声をあげた人もいようかと書き、これまでの成長を支えてくれた人々にまず、感謝の思いをと呼びかけた。新成人の大半が阪神・淡路大震災の起きた平成7年の生まれだった。
いま開催中の大相撲初場所で新十両に昇進した照強(てるつよし)も震災当日の1月17日、震源地に近い兵庫県洲本市の病院で生まれている。
「復興へ向けて神戸や関西の人が頑張ってきたので、自分も負けじと頑張りたい」「土俵を沸かせて、みんなが笑顔になるような相撲をとりたい」。照強の意気込みには周囲の人たちに寄せる思いが強く感じられる。168センチ、116キロの小兵力士は、人一倍稽古を積んできたという。
今年の新成人もぜひ、多くの人々に思いを致せるような大人になってほしいと願っている。
失敗すれば失敗したで、不幸なら不幸で、またそこに生きる道がある。その一事をいいたいために、私はこの本を書いたのです。べつの言葉でいえば、自分の幸と不幸とは、自分以外の誰の手柄でも責任でもない。誰もが、いままで誰一人として通ったことのない未知の世界に旅だっているのです。なるほど忠言はできましょう。が、その忠言がどの程度に役だつかどうか、それはめいめいが判断しなければなりません。第一、つねに忠言を期待することは不可能です。
究極において、人は孤独です。愛を口にし、ヒューマニズムを唱えても、誰かが自分に最後までつきあってくれるなどと思ってはなりません。じつは、そういう孤独を見きわめた人だけが、愛したり愛されたりする資格を身につけえたのだといえましょう。つめたいようですが、みなさんがその孤独の道に第一歩をふみだすことに、この本がすこしでも役だてばさいわいであります。
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