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オーガニック食品が健康にいいとは限らない

「オーガニック食品が健康にいいとは限らない 有機畜産物が体にいい本当の理由とは」(東洋経済オンライン)
 → http://toyokeizai.net/articles/-/106698

 有機農法で生産された肉や牛乳は、通常の方法で育てられたものと比べて一部の栄養素で大きな違いがあることが、先ごろ英栄養学会報で発表された論文で明らかになった。

 特に不飽和脂肪酸の一種で心臓病のリスクを下げる効果のあるオメガ3脂肪酸の含有量は、有機肉・牛乳のほうが50%も高かったという。

「(オメガ3)脂肪酸の含有割合では、(有機肉・牛乳のほうが)明らかに優れていた」と語るのは、英ニューカッスル大学のカーロ・ライファート教授(環境農業学)だ。ライファート教授はこの研究を行った国際チームのリーダーだ。研究資金(60万ドル)を出したのは、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会、それに有機農業を支援する英団体「シープドローブ・トラスト」だ。


有機だからといって、健康になれるかには異論も

 もっとも栄養の差があるからといって、有機肉を食べ、有機牛乳を飲めば健康になれる可能性が高いと言えるかどうかとなると異論も多い。

「現時点で答えはない」と語るのはトロント大学のリチャード・バジネット教授(栄養学)だ。バジネット教授はこの研究には関わっていない。「含有量を見る限りでは、体にいいはずだと思えるが」

 今回の研究では新たな実験を行ったわけではない。多くの別個の論文を集めて分析し、おおむね正しいと思われる結論を導き出す「メタ分析」という統計的手法を使ったのだ。

 有機食品のほうがそうでない食べ物より健康的なのかどうかについての激しい議論が、今回の研究でさらに過熱するのは間違いない。専門家の間でも、両者の間にはっきりした栄養的な違いはないと考える人もいれば、有機食品のほうがずっと体にいいと言う人もいて意見は分かれている。

 有機畜産物と聞くと抗生物質やホルモン剤、遺伝子組み換え餌を与えずに育てられた家畜というイメージが思い浮かぶだろうが、オメガ3脂肪酸が多く含まれている理由はそこにはない。

 その理由は野外で飼育するという有機畜産に求められる要件のほうにある。有機牛乳や有機牛肉の牛は牧草を食べて育つが、普通の牛は穀物を与えられるからだ。


餌が違えば従来農法でも同じ結果

有機農法の魔法とかいう話ではない」と、研究に参加した有機農業コンサルタントのチャールズ・ベンブルックは言う。「何を餌として与えられるかという問題だ」

 有機農法で育てられていなくても、牧草が餌の大部分を占める牛であれば同じような結果が出ると専門家は言う。「単純な話だ」とベンブルックは言う。

 今回、研究チームは牛乳について196本の論文を分析。肉についての研究論文はもっと数が少なかったため、肉の種類は問わず67本の論文を対象とした。「たくさんの論文をまとめて分析しないとメタ分析にはならない」とライファートは言う。

 2年前、ライファートは同様の研究を果物と野菜について行った。この時には、有機栽培もののほうが一部の抗酸化物質を多く含み、残留農薬は少ないとの結果が出た。

 食品に含まれるオメガ3脂肪酸にはさまざまな健康増進効果があるという点で、栄養学の専門家の意見はおおむね一致している。米農務省は2010年に食生活ガイドラインを改定、オメガ3が豊富に含まれる魚の摂取を増やすよう国民に呼びかけた。

 有機肉や有機牛乳にオメガ3が多く含まれるのは、穀物よりも牧草のほうが含まれるオメガ3の量がずっと多いからだ。「私たち人間が家畜が栄養を摂取する基本的な方法を変えてしまった。おかげで家畜から得られる製品の栄養組成も変わってしまったわけだ」とベンブルックは言う。

 今回の研究では、やはり不飽和脂肪酸の一種であるオメガ6脂肪酸については、有機肉や有機乳製品のほうがやや少ないという結果が出た。オメガ3やオメガ6は人体が機能するには欠かせない物質だが、人間はどちらも体の中で作ることはできない。

 大昔、人間はオメガ3とオメガ6を同じくらいの量、摂取していた。今日では、米国人のほとんどはオメガ3よりもオメガ6(一部の植物油や揚げ物に多く含まれる)をたくさん摂っているとされるが、こうした摂取量のアンバランスが健康に悪影響をもたらすとの説もある。


鶏肉を食べた方が健康的?

 ハーバード大学公衆衛生大学院栄養学部のウォルター・ウィレット学部長は電子メールで取材に答え、有機牛肉とそうでない牛肉の差は微々たるもので、どちらも飽和脂肪酸の量が多い点では同じと指摘した。

「赤身肉を鶏肉や魚に置き換えるほうが、脂肪酸の違いはずっと大きいし体にもいい」とウィレットは言う。

 ただし、魚の摂取を増やすよう呼び掛けることには問題もある。もしみんながそれに従ったら、川や海や湖から魚がいなくなってしまうからだ。

 トロント大学のバジネットは、有機肉や有機牛乳への切り替えを呼び掛けることは「以前から食べている食品でアプローチする手段」かも知れないと言う。

 バジネットによれば、健康効果を得るにはオメガ3の摂取量を1日あたり200ミリグラム増やす必要があるとの研究結果があるという。だが、有機牛肉に切り替えても摂取量は50ミリグラム増えるだけだ。「1日1回、牧草で育てた牛肉を食べるだけでは不十分だ」と彼は言う。

 もっとも、それに加えて有機牛乳をコップに2杯ほど飲めば「効果は出るだろう」とバジネットは言う。「あくまで仮説だが」

 専門家は、有機食品の健康効果をめぐる疑問を正面から検証しようとしている。

 ニューカッスル大学のライファートによれば、有機食品を食べている女性の子供は一部の病気にかかりにくいことを示す研究も複数あるという。ライファート自身、有機食品がラットの健康にもたらす効果を調べる実験を行っている。今のところ、残留農薬については確認できるレベルの影響があるようだ。

「死に至るほどの影響があるかどうかはまだ分からないが、ホルモンバランスに影響を与えているのは分かっている」と彼は言う。「ちょっと考えさせられる話だ」