NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

雪のひとひら

あっという間に銀世界。


雪のひとひら

 雪のひとひらは、ある寒い冬の日、地上を何マイルも離れたはるかな空の高みで生まれました。
 灰色の雲が、凍てつくような風に追われて陸地の上を流れていました。その雲の只中で、このむすめのいのちは芽生えたのでした。
 すべては立てつづけに起ったことでした。はじめはただ、もくもくとしたその雲が、山々の頂きをただようているばかりでした。それから雪がふりはじめました。そして、つい一秒まえまでは何物もなかったところを、いま、雪のひとひらとその大勢の兄弟姉妹たちが空からおちつつある、ということになったのです。
 まあ、おちる、おちる、おちる! ゆりかごにでものったように、やさしく風にゆられ、右へ左へ、ひらひらと羽のようにふきながされながら、雪のひとひらは、いつのまにか、いままでついぞ見も知らぬ世界にうかびでていました。

── ポール・ギャリコ(『雪のひとひら』)

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