一日一言「敬愛」
八月二十七日 敬愛
貝原益軒(江戸前期の儒学者であり教育者)は、正徳四年(西暦一七一四年)の今日、八十五歳で亡くなった。彼が人を思いやる心を説いた本にこう書いてある。
自分の親しい人を愛し、貴い人を敬うことは当然であるが、知らない人やいやしい乞食であっても、みなこの世に生を受けた人であるから、それぞれの立場を考えて、悲しまなければならない。決して悪く見たり、あなどってはならない。親交の度合い、身分の違いで、その悲しむ差はあろうが、思いやりの心をなくしてはならない。
隣人よりも、むしろ遠人。遠くの人を愛せ。
あなたがたは隣人のまわりにむらがり、それをさも美しいことのように言う。しかしわたしはあなたがたに言う。あなたがたの隣人への愛は、あなたがた自身への愛がうまく行かないからだ。
あなたがたはあなたがた自身から逃げだして、隣人のところへ行くのであり、それを美徳にしたいと思うのだ。しかし、わたしはあなたがたの「無私」を見ぬいている。
わたしはあなたがたに、隣人への愛を勧めるだろうか? むしろ、わたしは隣人から逃げること、遠人への愛、を勧める!
隣人への愛よりも、遠くにいる未来の人への愛のほうが高い。私は人間への愛よりも、事物と幻影への愛のほうがさらに高いと思う者だ。
あなたの隣人愛の犠牲になるものは、離れている人々だ。あなたがたが五人集まれば、いつも第六番目の者が人身御供にあげられる。
わが兄弟よ。わたしはあなたがたに、隣人への愛を勧めない。わたしはあなたがたに、遠人への愛を勧める。
ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)
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