NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

構造と機能

「コラム・養老先生のさかさま人間学 解剖編 口」(【おやこ新聞】産経新聞)
 → http://sankei.jp.msn.com/science/news/121001/scn12100107540001-n1.htm

 ■つくりと働きのちがい

 口は、正式な解剖学の用語にはありません。ふつう口といっているのは唇のことです。中に空間があり、それは「口腔」といいます。口だけ切り出してくださいと言われたら、わかるでしょう。唇を切って持ってくるしかないのです。

 でもふつうに口っていうじゃないですか。いいますけど、じつはその口は機能、つまり「働き」のことを指しています。解剖は機能ではなくて、構造を調べます。だから構造としては、唇と口腔でいいのです。歯や歯ぐきも、もちろん構造です。

 働きとしての口とは、なんでしょうか。入り口でしょうか、出口でしょうか。こういうことを「屁理屈じゃないか」と言う人もあります。でも僕はそうは思いません。自分で言った言葉が何を意味しているのか、よく分かっている。それはとても大切なことです。

 構造と機能、つまり、つくりと働きを区別するのは、大切です。これを混同すると、わけのわからない質問が出てきます。たとえば「心はどこにあるか」。こういう種類の質問です。じつは心は、場所とは無関係な概念です。心は、働きだからです。

 構造には場所がありますが、働きには一定の場所はありません。「消化」や「排泄」は働きだから、一定の場所はないのです。

 科学が物を重要視する学問だから、場所があって当たり前だと、思ってしまうのでしょうね。

 口だけではありません。肛門も解剖学にはない言葉です。正確には、「肛門管」といいます。口や肛門はいわば「印象としての言葉」といっていいでしょうね。


【メモ】口腔

 口腔唇からのどのあたりまでの空間を指し、食道、胃、腸へと続く、消化管の入り口。「こうこう」とも読む。ヒトは口に食べ物を含むことができるので、小さくかみくだいたり、味わったりすることに向いている。ワニやヘビなどが獲物を丸のみするのは、口をしっかり閉ざすことができないからだ。

心は働きであって、機能である。
故に、見えない。


「かんじんなことは、目に見えない」と王子さまは、忘れないようにくりかえしました。

── サン=テグジュペリ『星の王子さま』