2人の八重
『【産経抄】1月7日』
→ http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130106/plc13010603080001-n1.htm
会津は「日本における看護思想発祥の地」だと、作家の中村彰彦さんはいう。もともと会津藩には、中村さんが「日本近世史上最大の人物」とたたえる藩祖・保科正之(ほしな・まさゆき)の、慈愛の精神が受け継がれてきた。
その会津藩は戊辰戦争で、3000人を超える死者を出して滅亡する。生き延びた女性たちの胸には、命の大切さが刻み込まれた、というのだ(『会津のこころ』日新報道)。きのう始まったNHK大河ドラマ「八重の桜」で、綾瀬はるかさん演じるヒロインの八重も、そうした女性の一人だった。
戊辰戦争では銃を手に奮戦しつつ、傷病者の看護にも当たっている。八重の夫となる新島襄は、京都看病婦学校を設立した人物だ。八重は夫の死後、日清、日露戦争で、看護婦として活躍した。
会津ゆかりの八重といえばもうひとり、日本の看護の歴史を語る上で欠かせない人物がいる。明治30年に台北で生まれた井深八重は、会津藩家老の家柄のお嬢様だった。長崎県の女学校に英語教師として赴任してまもなく悲劇に襲われる。
体にできた赤い斑点がハンセン病と診断され、静岡県御殿場にある神山(こうやま)復生病院に隔離されたのだ。この病気に対する当時の世間の差別と偏見は、想像を絶するものがあった。ところが1年後、なんと誤診だったことがわかる。
フランス人神父の院長から留学を勧められた八重は、病院のために働く決意を語る。4年後、看護婦の資格を取得して病院に戻って以来、患者から「母にもまさる母」と慕われ、平成元年、91歳の天寿を全うした。若いころの写真を見ると、息をのむほどの美しさだ。その生涯をくわしく知りたいと、関係者に取材を試みたが果たせなかった。
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