民主主義
「【断 呉智英】すばらしきオバマ勝手連」(産經新聞)
→ http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/081109/acd0811090309000-n1.htm
米大統領選挙で民主党のオバマが勝利した。初の黒人大統領が誕生する。これをどう評価していいか、私には分からない。民主党はリベラル政党だが、米国のリベラルは日本のリベラルとはしばしば正反対の政策をとる。従ってリベラルだから良いとも逆に悪いとも単純に言えない。黒人大統領誕生が慶事だとしても、黒人であるが故に善政をするかどうかは、なんとも言えない。つまりどう評価していいか判断に迷うのだ。
ところが、オバマと名前が同じだという理由で、この二月からオバマ支持の運動をしてきた人たちがいる。福井県小浜市の市民有志が作る勝手連だ。今回のオバマ勝利には大歓声が沸き起こった。取材の外国人記者からは名前が同じだというだけで熱狂的に支持する市民たちに驚きの声が上がった。
私、こういう運動、すごく好きです。私が小浜市民だったら率先してやりたかった。運動の秘めた本旨はもちろん民主主義批判である。オバマが勝とうが負ケインだろうが、そんなことはどうでもよい。世界中がマインドコントロールされている良識という迷信の打破が目的なのだ。私は関わることはできなかったが、今回の勝手連は見事な運動だった。民主主義は本質的に衆愚主義でしかありえず、市民とは愚民の別名に過ぎないことを、世界中に発信したからだ。
終戦直後にカストリ焼酎を愛飲したのでカストロを支持するとか、サル年生まれだからサルコジを応援するとか、そんな素敵(すてき)な運動がもっと起きるといいな。
福田恆存に曰く、
愛の陰には色情があり、正義の陰には利己心がある。反省の篩(ふるい)にかければ、愛や正義の名に値するものはめったにないことになる。それがどういうわけか、今日の日本では、民主主義だけが篩(ふるい)の目を逃れ、ほとんど唯一の禁忌(タブー)にまで昇格してしまっている。敵も味方もそれを旗印にする。民主主義の名の下に暴力を犯し、あるいは暴力を犯してそれを肯定するために民主主義を口実にする。そうかと思うと、暴力は民主主義ではない、それに反するものだと言い、民主主義をもってそれを説伏(しゃくふく)しようとする。民主主義とはそれほど便利なものか。