animism
「【断 中条省平】宮崎アニメのアニミズム」(産経新聞)
→ http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080722/acd0807220257000-n1.htm
辻惟雄(のぶお)の近刊『奇想の江戸挿絵』(集英社新書)が面白い。江戸時代の読本(よみほん)に付けた木版画のイラストレーションの傑作を集成したもので、大きめの図版が百点も入って1000円という激安値もうれしい。
なかで最大の存在はむろん北斎で、柳亭種彦の『霜夜星(しもよのほし)』に付けた波の絵には心底びっくりさせられた。辻先生の『奇想の図譜』には「波の変幻」という名エッセーが収録されているが、そこでも論じられていない逸品である。
「波の変幻」では、北斎の有名な「神奈川沖浪裏」が19世紀末フランスの版画家ジョソにパロディーを描かせた話が出てくるが、この『霜夜星』の波の絵も、ジョソのパロディー版画の元ネタの一つであると明かされている。
日本美術の波の文様はきわめて豊かな表情をもつが、この夏、波の系譜に新たな一ページを加えた作品がある。宮崎駿の新作『崖(がけ)の上のポニョ』である。
海に住む魚のポニョが一人の男の子と出会い、人間の女の子になろうと切望する話で、ポニョが男の子に再会するために海の上を疾走する場面が全篇のクライマックスだ。
このとき海は大波を逆立てて荒れ狂うのだが、その波の動きがすばらしい。波頭のひとつひとつが巨大な怪魚と化し、逆巻き、うねり、犇(ひしめ)きあって押しよせるのだ。
自然の事物に魂を吹きこむアニミズムこそ日本美術の重要な条件だと辻先生は語ったが、『崖の上のポニョ』は現代芸術におけるアニミズム表現の最高峰である。
- 作者: 辻惟雄
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