NAKAMOTO PERSONAL

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「次室士官心得」

「次室士官心得」でも。

 「次室」とは士官次室、英語で、ガンルーム、少尉候補生、少尉、中尉たちのラウンジといふか、公室です。此の、ガンルームを公室とする若手士官たちの日常心掛けるべき事項を列挙したものが、すなわち「次室士官心得」でして、民間の企業でいえば新入社員心得帖みたいな小冊子なのです。いろんな細かなことが書いてあって、説教くさいと言えば説教くさいんだけど、海軍を知らない人が想像しそうな、滅私奉公、命を捨ててお国のために尽くすと覚悟とか、そんなしかつめらしい項目はほとんど無しです。
阿川弘之著『高松宮と海軍』)

第一 艦内生活一般心得(抜粋)

  • 宏量大度、精神爽快なるべし。狭量は軍隊の一致を破り、陰鬱は士気を沮喪せしむ。忙しい艦務の中に、のびのびした気分を決して忘れるな。細心なるはもちろん必要なるも、「こせこせ」することは禁物なり。
  • 旺盛なる責任観念の中に生きよ。これは、士官として最大要素の一つだ。命令を下し、もしくはこれを伝達する場合には、必ずその遂行を見届け、ここにはじめてその責任を果たしたるものと心得べし。
  • 犠牲精神を発揮せよ。大いに縁の下の力持ちとなれ。
  • 少し艦務に習熟し、己が力量に自信を持つ頃となると、先輩の思慮円熟なるが、かえって愚と見ゆるとき来ることあるべし。これすなわち、慢心の危機に望みたるなり。この慢心を断絶せず、増長に任じ、人を侮り、自らを軽んずるときは、技術・学芸ともに退歩し、ついには陋劣の小人たるにおわるべし。
  • おずおずしていては、何も出来ぬ。図々しいのも不可なるも、さりとて、おずおずするのはなお見苦しい。信ずるところをはきはき行っていくのは、我々にとり、もっとも必要である。
  • 何事にも骨惜しみをしてはならない。乗艦当時はさほどでもないが、少し馴れて来ると、とかく骨惜しみするようになる。当直にも、分隊事務にも、骨惜しみをしてはならぬ。いかなるときでも、進んでやる心がけが必要だ。身体を汚すのを忌避するようでは、もうおしまいである。
  • 「事件即決」の「モットー」をもって、物事の処理に心掛くべし。「明日やろう」と思うていると、結局何もやらずに沢山の仕事を残し、仕事に追われるようになる。要するに、仕事を「リード」せよ。
  • 要領がよいという言葉も聞くが、あまり良い言葉ではない。人まえで働き、陰でずべる類の人に対する尊称である。吾人はまして裏表があってはならぬ。つねに正々堂々とやらねばならぬ。
  • 艦内で種々の競技が行われたり、また演芸会など催される祭、士官はなるべく出て見ること。下士官兵が一生懸命にやっているときに、士官は勝手に遊んでおるというようなことでは面白くない。

上村嵐著『海軍の「士官心得」―現代組織に活かす