2020-01-11 そこがきみ、からくりさ 「きみはあの月も 星も あんなものが本当にあると思ってるのかい」 とある夜ある人が云った 「うん そうだよ」 自分がうなずくと 「ところがだまされているんだ あの天は実は黒いボール紙で そこに月や星形のブリキが貼りつけてあるだけさ」 「じゃ月や星はどういうわけで動くんかい」 自分が問いかえすと 「そこがきみ からくりさ」 その人はこう云ってカラカラと笑った 気がつくとたれもいなかったので オヤと思って上を仰ぐと 縄梯子の端がスルスルと星空へ消えて行った ── 稲垣足穂(『一千一秒物語』)一千一秒物語作者:稲垣足穂 画 / たむらしげる 文復刊ドットコムAmazon